音楽のような本がつくりたい

2020年に出版された『音楽が本になるとき』に続き、昨年暮れに上梓された『音楽のような本がつくりたい』。著者はアルテスパブリッシング代表取締役の木村元さん。音楽之友社で20年、そして独立されてアルテスパブリッシングを創業されて15年。音楽書の編集に携わり時を重ねてこられた中での想いが丁寧に綴られたエッセーでした。

目に見えない抽象的な「音楽芸術」を言語化することのプロフェッショナルが選び抜いた言葉から、行間から、そして全体のリズムや構成から「音楽への愛」が湧き出てくるかのよう。音楽家について、読書について、音について、そして木村さん自身について。。。傍で優しく嚙み砕くように、深く静かに哲学を語りかけてくださるインティメイトな世界。

アルテスサポーターに配信されるエッセーが元になったエッセー。でもコンピュータの画面を通じて伝わる情報と、指で触れて頁を捲って伝わってくるものは、別次元の感じがするのは私だけでしょうか。複雑なのに自然体、厳しいのに温かい。完璧に紡がれた織物のように展開されていきます。

そして当然アルテスからの出版と思っていたら京都の出版社、「木立の文庫」からの出版。装丁を絶賛するのは、コンサートで「ドレスが良かった」と言うのと同じ感じなので、普段あまり言わないことにしているのですが、この2冊の姉妹本の凝った装丁は見事という他ありません。思わず触りたくなるようなデザインと紙質。扉を開けたときもう1冊のほうの色が使われる統一感。

またこの本には各章のお勧めBGM、プレイリストが懇切丁寧についています。まさに右脳(音楽)と左脳(本)同時に楽しめます!というメッセージ。「木村さんはこういう音楽・演奏がお好きだったんだ」と、セレクションを見ていて楽しかったです。

ただ木村さんご自身も、本を読むときや原稿を書くときにBGMをかけておられるというのは意外でした。画家、陶芸作家の知人からも「好きな音楽を聴きながらだと仕事がはかどる」というお話を時々聞くのですが、私自身は、このBGMの中で何かをする、ということが全くできないのです。

別の時間を使ってそれぞれに集中するため、両方同時にできる人に比べて時間が倍かかってしまうということになりましょう。それは演奏家の宿命かもしれないけれど、いつかはBGMをかけながら何かをする器用さも身につけないと、聴かずに終わってしまう音楽がたまってしまう、、、とも思います。

いずれにしても、木村さんの鋭く豊かな感性と碁盤の目のように張り巡らされたアンテナに脱帽の2冊でした。

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