追悼 池内紀先生

ドイツ文学者の池内紀先生が8月30日に天国に旅立たれました。

池内先生には20年ほど前、沼津文学祭コンサートでご縁をいただいたのが最初です。ハンチング帽とGパン姿で颯爽と歩いて若山牧水記念館にいらっしゃり、にっこりとほほ笑んでくださった日が、つい昨日のことのように想い出されます。

それ以来、演奏会にいらしてくださったり、ご著書をお送りくださったり、いろいろご指導をいただいてまいりました。池内先生はテレビを一切ご覧にならず、コンピュータ、携帯、メールもなさいません。手書きのハガキには、個性的な文字が踊り、色鉛筆で描かれた小さな絵が添えられていることも。もう先生の魅力あるお葉書をいただくことはありません。悲しみがあふれます。

お優しくまろやかなお声で、ズバッと結論を仰り、ユーモアと鋭さを併せ持つ池内先生の語り口。エッセーでもセンテンスが短く小気味よい独特のリズムがあり、自然に引き込まれました。

「僕は毎朝机に向かい必ず何か書く。ピアノもそうでしょう。この“毎日必ず”というのが大事。」と仰り、次々に出版してこられた先生。最近の新著の多さには驚くばかりでした。出版社を通して2週間に3冊お送りくだり、さすがに読書量が追いつかず、お返事はそのうち・・・と思っている矢先の訃報に愕然としています。

昨年は、神戸で対談コンサートが実現しました。「僕はピアノの音が一番好き。毎朝1曲ずつベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴いている。」と仰っておられた先生。打ち上げでは、季節の鱧を召しあがりながら杯を傾け、神戸で過ごされた日々を懐かしんでおられました。

「神戸は大好きな街。また来たいね。」と仰ってくださった日から一年。同じく台風の季節に、お別れとなりました。池内先生、どうぞ安らかに。

ありがとうございました。

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