パンデミックの中、多くの公演が中止となり、オペラ界は大きな打撃を受けました。そんな中、今日はたましんRISURUホール大ホールで開催された《トゥーランドット》ハイライトに伺いました。
総監督:砂川稔氏、指揮:古谷誠一氏、演出:直井研二氏。昨年中止となった公演、一年越しの情熱を実らせての実現です。
立川市民オペラに尽力してこられた皆さんの感激も一入だったことと思います。「支えてきてくださった演奏家、制作者への感謝と恩返しの気持ちを込めて」と銘打たれています。
オペラは、企画・運営・制作に多くの人がかかわる世界。総監督、指揮、演出、声楽家、演奏家、バレー、コレペティトゥーア、舞台装置、照明、衣装、音響・・・。
活動報告には、昨年4月の緊急事態宣言発令後の苦渋の日々が書かれています。演奏配置を検討、出演意思確認のアンケート、練習を断念、活動再開、ホールの時短、チケット発売日を延期・・・。開催にこぎつけるまでのご苦労は大変なものだったことでしょう。この日を迎えられたことに、心からのお祝いを申し上げます。国立音大大学院で、昨年まで私の授業に出てくれていた学生さんがオーケストラの中で生き生きと演奏していたのも嬉しい限り。
全曲上演ではなくハイライト上演なので、省略された部分は柳田奈津子さんのナレーションが入り、演出はソーシャルディスタンスを保つ工夫がされていました。そのような制約の中、縮小されたはずの舞台なのに、カラフとトゥーランドット姫の激しいドラマ性、大臣ピン・ポン・パンの喜劇、美しいリューの悲劇が浮き彫りになり、色とりどりの中国風衣装、バレーの動きなどと相まって、息をつかせぬ素晴らしい舞台が繰り広げられました。
そして、プッチーニは、何度聴いても、やはりオペラの天才!旋律の魅力は当然ですが、オーケストレーションの見事さ。トロンボーンとシロフォンで始まる序曲から大詰めに至るまで、ドラマの中に人を引きずり込み、会場を興奮の坩堝と化してしまう力を持っています。
プッチーニの最後のオペラ《トゥーランドット》は、第一次世界大戦後、スペイン風邪流行など苦難の歴史の中で作曲されました。演出家の直井氏が演出ノートの中で「オペラ」はペストや天然痘を克服した16世紀末、人間復興の機運の中で誕生した音楽劇であり、オペラの責務は、生きる力を共有していく役目を担っている。」と記しておられます。
福井敬さんのカラフが輝かしい美声で「vincero(勝利する)」を歌い終えた瞬間、客席の人々が心の中で叫んだ「BRAVO!」。
勇気と希望を与えてくれたステージでした。
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