チャールズ・バーニー音楽見聞録〈ドイツ篇〉

「旅をしない者は、芸術家ではありません。」と語ったモーツァルト。日常から離れる旅の経験は多くのインスピレーションを与えてくれます。

海外への旅が出来なくなって1年がたちました。せめて画像で楽しみましょう!ということか、テレビでは「旅番組」の再放送が多く流れています。こんな素敵な番組があったのか、というくらいの美しい映像や知られざる名所など、思わず見入ってしまいます。

SNSなどで、居ながらにして世界の動画を見たり、情報をゲットすることができる時代ですが、想像の翼に乗って旅をするのも一興です。昨秋、出版された《チャールズ・バーニー音楽見聞録》〈ドイツ篇〉(春秋社)は、並外れた音楽旅日記の大著です。

サンスーシー宮殿でフルートを披露するフリードリヒ2世、皇帝臨席のもと行われたサリエーリのオペラ『男爵』上演、ウィーンの劇場の様子、マンハイムのオーケストラのもつ色彩と陰影の魅力、、、、等々。錚々たるメンバーが登場する18世紀ヨーロッパ音楽界へのタイムスリップ手引書と言ってもよいでしょう。

心地よいリズムと明解な言葉で、私達を音楽旅行に誘ってくださるのは、訳者の小宮正安先生。
「”フィールドワーク” などという言葉が存在しなかった時代、バーニーの行ったことこそ、文字通りその先駆けだった」と小宮先生は述べておられます。
当時、今よりはるかに交通の便の悪い時代、自らヨーロッパ各地に足を運んだバーニーのヴァイタリティ。そして理性と知性を併せ持った音楽批評は、貴重です。

小宮先生には、昨年2月、上野奏楽堂で開催されたベートーヴェンのレクチャーコンサートでご一緒させていただき、喫茶店での初対面の顔合わせで、打ち上げのように盛り上がってしまったほど、楽しい先生でした。その時主催してくださった旅行社のMさんは、今は旅行の仕事を休止されておられますが、一日も早く旅のお仕事にお戻りくださることができるよう願ってやみません。その時も、小宮先生ご自身、旅から旅のお忙しい毎日で、ウィーンとの往復の合間を縫っての打ち合わせでした。そして小宮先生が薫陶を受けられた池内紀先生もまた、旅の達人として、多くのエッセーを残されました。

皮肉にも、旅ができない期間に大著「音楽見聞録」を読むことができました。

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