終わりが無い世界

画家の知人が「いつ筆を置くかが難しい」と仰っていたことがあります。これで完成!と思う瞬間を決めるのは自分。いじいじと描き続けたい心を捨てなければならないとか。

演奏の場合、どうなのでしょう。初めて曲に出会い、感動とともに仕上げ、内面化するまで反復する段階で、弾いても弾いても「完全!」と思える瞬間はありません。よしんば、なん百回かに1回「よっしゃ!」とガッツポーズができる演奏があったとしても、本番では「あぁ、あそこが・・・」「ここは、もう1回弾きたい」という音が必ず出てきます。演奏の歓びは他をもって代えがたいものですが、おそらく永遠に「満足」しないまま生きていくのが凡人演奏家の宿命なのかもしれません。

それに引きかえ、自然の美は何と完璧なのでしょう。満月の夜の美しさ、9月に咲き誇るダリアの華麗さ、山の稜線の優雅さ、雲の形の見事さ、非の打ち所がありません。ため息をつきながらそれらに見入っています。

8月に仕上げようと思っていて、9月に入ってしまったものの一つに、大学に提出しなければならないベートーヴェン関連の論文がありました。楽聖ベートーヴェンは「自然は神様が造りたもうた芸術!」という言葉を残し、自然からインスピレーションを得て名曲を創作しました。自然を体現した《ワルトシュタイン》などと向き合ったひと月半。

「毎日必ず書かないと書き方を忘れる」と故池内紀先生からご教示いただいた事があり、少しずつでも書こうと思いつつ、雑事に追われパソコンに向かわない日もしばしば。。。それでも何とか書き終えた後、故礒山雅先生の「推敲をすればするほど文章は精度が高くなる」のお言葉が浮かび、何度か読み直しをしました。そのたびに修正箇所を発見!きっとまた読み直したら、修正したくなる場所が限りなく出てくるに違いありません。けれど昨日「これにて終了!」と自分でピリオドを打ち提出を終えました。完成度はともかく?!手から離れた瞬間、肩の荷が降りて、気持ちが軽くなったところです。

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