東京シンフォニエッタ第51回定期演奏会

7月8日夕刻、安倍晋三元総理ご逝去の訃報が入りました。選挙の応援演説中、白昼手製の銃で背後から行われた信じ難い凶行。足がすくみ、信じられない思いでいっぱいになりました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

心が沈む中、夜、東京文化会館へ。

東京シンフォニエッタ定演、ソリスト百武由紀さんを中心に、ヴィオラ作品を集めたプログラムでした。最初の曲は、エルヴィン・シュルホフ:小協奏曲(フルート、ヴィオラ、コントラバス)。今年没後80年のシュルホフ。ナチス収容所で命を落とした悲劇のユダヤ人作曲家です。吉田秀さんのコントラバス、齋藤光春さんのフルートの音色とともに、不思議なエネルギーが伝わってきました。

ヒンデミットの難曲(藤原亜美さんのピアノ、西澤春代さん)の見事なアンサンブル、そしてジョージ・ベンジャミンで魅せる2挺のヴィオラ(吉田篤さん、多井千洋さん)の息もぴったりの妙技に心からの拍手。ガース・ノックス:《ヨナと鯨》では、ステージに不気味な四角い台が置かれ、真っ暗な中での演奏。テューバが鯨、それに怯えるヨナ。テューバからは鯨の潮吹きや荒波が聴こえ、ヴィオラは心の奥底の叫びが聴こえてきます。《白鯨》の映画を無性に見たくなりました。(そういえば最近、映画館に行ってない・・・。)

休憩後は、板倉康明氏の指揮で弦楽合奏とともに、ベンジャミン・ブリテン:ラクリメ(涙)。ダウランドの「流れよ、わが涙」が曲中に使われ、最後は哀しみが心に染み入るような美しいハーモニーで曲が閉じられます。気付くと響きに身を委ねている自分の頬にも涙が伝っていました。この曲はブリテン自身のピアノで、百武さんの師であるプリムローズによって初演された曲。百武さんの師への想い、音楽への共感が波動となって空間を一つにしていました。今日という日と、この「ラクリメ」の響きは、忘れられません。

最後は、大田智美さんのアコーディオンが加わり、西岡龍彦氏の《我が唯一の望み》は世界初演。6点組のタピスリーの一つ《貴婦人と一角獣》からインスピレーションを得て作曲された作品。軽やかにステージを駈け抜ける百武さんのエネルギーとヴィオラの魅力全開の2時間。

板倉康明氏はじめ、真のプロフェッショナル達が、真摯に音楽に向き合う姿と響きは美しかった!
「自分」を誇示するのではなく「音楽」が主役のステージ。共感と応援のエールを送るファンの気が会場に満ちた演奏会でした。

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