ベーゼンドルファー研修

楽器開発に携わる技術陣の皆様のためのベーゼンドルファー研修がベーゼンドルファー・ジャパンで行われ、「ミニコンサート」と「お話~ピアノの歴史~」を担当。普段「演奏」に集中していますが、「お話」することで、あらためて楽器を見つめなおし、これまでの自分とピアノとの邂逅を思い起こす時間にもなりました。

ベートーヴェンが天国に旅立った翌年、シューベルトがその後を追うように短い人生を終えます。その1828年、ベーゼンドルファーが創業。
創業者イグナーツ・ベーゼンドルファーが1829年に製作した楽器を弾いていると100年後、200年後を見据えてウィーンの伝統を築こうとした誇りと夢が伝わります。

ウィーン式アクションの持つ繊細さ、ウィーンナートーンと呼ばれる温かな音色、シューベルトの音楽が持つ儚さ、夢、憧れが鍵盤の向こうから見えてくるようです。
ウィーン式にこだわったベーゼンドルファー社は、20世紀に入り、ヨーロッパ中のピアノがイギリス式(突き上げ式)に舵を切ってもまだウィーン式アクションも作り続けていた老舗。けっきょく当時200あまりあったウィーンのピアノ工房は、現在唯一ベーゼンドルファーのみとなりました。

2015年、これまでのフラッグモデルであるインペリアルに加えてVC(ヴィエナコンサート・モデル)が登場。ウィンナートーンと気品ある弱音を残しながら立ち上がりの良さを実現し、「新たな」楽器の製造が始まりました。技術の皆さんからは鋭い質問が飛び交い、興味が集中したのは、インペリアルと280VCの比較。実際に同曲を両方の楽器で聴いていただき、奏者の実感をお話ししたり、実際に響きの違いを感じていただきました。お父様の代からベーゼンドルファーの調律に携わっておられる井上雅士さんの「メカニズムや構造」の詳細なプレゼンテーションは充実していました。「弾く音楽によって、欲しい音によって、使い分けができたら最高」というのが皆の一致した意見。

伝統を守る中での革新。響きに耳を澄ます純粋さ。280VC制作プロジェクトにおけるウィーンのマイスター達の言葉や共に響きを共有した時間が懐かしく蘇りました。

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