クセナキス生誕100年

国立音楽大学ならではの企画「聴き伝わるもの、聴き伝えるもの」。第17回を迎えた今年は、生誕100年を迎えたクセナキス特集。作曲の川島素晴先生、菊池幸夫先生の大がかりな企画の実現に、ワクワクしながら講堂に向かいました。

はじめにクセナキスと同時代のギリシャ人作曲家アネスティス・ロゴテティス《オデュッセイア》。図形楽譜をもとに古代ギリシャ叙事詩に対峙した学生達の健闘に拍手。図形楽譜をどう読み解くかについての議論、試行錯誤、そして念入りな準備の成果が披露されました。

続いて川島素晴氏の新作《y=100x》は井上郷子教授をソロに迎えたピアノ協奏曲。内部奏法が駆使されピアノ・ソロと10名の伴走者たち。10種のピアノ奏法と10通りの伴奏方法。川島氏のプログラムノートによるとyはクセナキスのファーストネームのYannis(Iannis)からとられ、数学を作曲に用いたクセナキスへのオマージュでもあり、今年退官を迎えられる井上先生のIでもあるとのこと。メシアンとジョン・ケージの没後30年も意識し、2人の偉大なる現代作曲家へのオマージュも内包した作品。体調不良で欠場となった学生に変わり、自らパフォーマーとして演奏に参加された川島氏。私の席がたまたまその川島氏の真ん前ということもあり、迫力とオーラの真っただ中で世界初演に立ち合ったエキサイティングな時間。風船が割れ、譜面台が倒れる(ハプニング?!)ような大音量のあとの突然の静けさが強いインパクトを残しました。

クセナキスはアテネ工科大学生時代、ナチスへの抵抗運動に参加し、砲弾を受け左目を失明。パリに亡命した作曲家でもあります。1950年代の《アホリプシス》、60年代の《アナクトリア》、バスクラリネット(中村愛佑美さん)の特殊奏法が活躍する80年代の《交換》、90年代の《オメガ》。時系列での大がかりでユニークな演奏会。現代音楽のスペシャリスト板倉康明氏のタクトのもとクセナキスの生涯が舞台に浮かび上がりました。

最後は打楽器ソロの岡部亮登氏の自然で卓越したパフォーマンスで、クセナキス絶筆となった最後の作品《オメガ》。大学の情報誌のインタビューで、「国立音大では演奏技術だけでなく「人として」を学んだ」と答えていた岡部さん。ステージに登場した瞬間、音楽を奏でる喜びが客席に伝わり、引き込まれました。

スタジオで行われた70年代の《エルの伝説》は、昼夜2回公演だから、、と安心していたらすでに「満席」で断念・残念。大盛況のクセナキス生誕100周年となりました。月夜の中、講堂から外に出ると踏切や車などの「街の音」すらも音楽に聴こえてしまう不思議な感覚になりました。

コメント