ブロードウッド調査

兎年に入り3週間過ぎました。
ぴょんぴょんと跳ねるウサギの干支の年は、例年より速く過ぎるような気がしています。

ニューイヤーコンサートが終わった翌日から、シューマンのピアノ五重奏曲、グリークのピアノ協奏曲、ブラームスのヴァイオリンソナタ第3番、モーツァルトのヴァイオリンソナタ、ベートーヴェンのピアノソナタなど5回分くらいの演奏会の準備を同時に行う毎日が続いています。

瞬間、瞬間は、忙しさを忘れ、じっくりと向き合ってしまうため、逆に時間があっという間に過ぎてしまうのかもしれません。
故礒山雅先生は「感動的な時間は速く過ぎる、つまらない時間はゆっくり過ぎる」と常々仰っていました。名曲や名器に囲まれ、「速く過ぎる時間」を過ごせているという幸せに感謝しなければいけないのだろうと思います。

今日は、博士論文に取り組んでおられるSさんが、ジョン・ブロードウッド(1810年頃製)の調査にいらっしゃいました。
自分の楽器であっても、わざわざアクションを開けてハンマーに巻かれた革の層を数えたり、寸法を測ったりということはめったにしませんので、私にとってもいい機会でした。年に一度の健康診断で自分の身体に向き合うように、私の愛器の一つであるイギリス生まれの210歳のピアノの内部をまじまじと見た午後のひとときとなりました。

高級木材マホガニーを贅沢に使ったボディ、二段階に変えることができるシフトペダル、バスの音量の豊かな響き、高音低音を分けて操作できるダンパーペダルなど
イギリスの楽器職人、ブロードウッド氏の矜持とアイディアが楽器の端々に見えるようです。200年の時を経てもなお、ハイドン、ベートーヴェン時代の香りを今に伝える楽器。

このピアノはべートーヴェンが最後の3つのソナタを書いた時に使っていたブロードウッドと同型の楽器です。今年秋から開始するベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲シリーズ。最終回では、この楽器を使う予定でいます。ウサギのように速足ではなく、じっくりと32曲に向き合っていきたいと思っています。今年頂いたお年賀状の中の1枚。「ウォーキングを始めました。久元さんの演奏会をこれからも永く楽しむために。」との嬉しいお言葉。
聴いてくださる方が一人でもいらしてくださる限り、私自身も精進していきたいと思います。

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