ピアニストが語る!

台湾から音楽学者チャオ・ユアンプーさんが来日。国立音大にご案内したり、歴史的ピアノを弾きながら音楽ジャーナリスト森岡葉さんとともに音楽談義の楽しいひとときを過ごしました。

ちょうど先月『ピアニストが語る』(アルファベータブックス)シリーズ第5巻が出版されたばかり。原著の『游藝黒白』には108人のピアニストのインタビューが収録されているそうですが、訳者の森岡葉さんのリズミカルな言葉で日本語に順次訳され、人気シリーズになっています。
今回の第5巻は、巨匠と若手の両方が登場。トップバッターが我が師、故イエルク・デームス先生ということもあって出版を心待ちにしていました。

デームス氏のインタビューについては、「話せば長くなる」とのことでしたが(笑)、師匠が上機嫌でチャオさんに語る姿が目に浮かぶ内容です。森岡さんの訳も、すぐそこにデームス先生の声が聞こえてくるかのよう。フィッシャー・ディースカウやアーメリングとの出会いについて懐かしく語るデームス先生。歌曲伴奏の極意など、ガーベルクの山荘で超厳しいレッスンを受けた日のことが蘇ります。

チャオさんのインタビューによって、一人の音楽家から芸術観、人生観、作曲家への想い、生活などが浮かび上がってきます。気難しいデームス先生がこんなに流暢にお喋りをするなんて!チャオさんという人はただものではない!どんな方なのか一度お会いしてみたい、と思っていた矢先のことでしたので、夢が叶って嬉しい一日。森岡さんに感謝です。

政治学部国際関係学科出身という異色の経歴。その後、大英図書館の特別研究員としてキングス・カレッジで音楽学を専攻し博士課程修了。音楽への情熱、知性、そして気さくな人柄、これらが相まってピアニスト達へのインタビューが成功しているように思います。

「ちょうど北海道に行っていて貴方のニューイヤーコンサートを聴けなくて残念だった。」と言ってくださったチャオさん。

ちらっとモーツァルト第21番ピアノ協奏曲のカデンツァの触りを弾いた瞬間、「あ、リパッティの?」と一言。これまで1小節ですぐに当てたのはチャオさんが初めて。聴いてきている音楽の量が半端でないのでしょう。そしてインタビュアーの中には、自分の知識をひけらかし、喋りすぎて時間切れになってしまうような人もいますが、チャオさんは無類の「聞き上手」。この「押し」と「引き」のバランスが、名インタビュアーの条件ではないかと最近思っています。

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