ヨハネ受難曲

1月22日「たのしいクラシックの会」にお伺いしました。バッハ研究の第一人者、礒山雅先生が30年以上主宰してこられた「たのしいクラシックの会」は、
2018年冬に先生が急逝たれた後も、勉強会やコンサートが続いています。

今回は、礒山先生の遺作『ヨハネ受難曲』をテキストに、美学芸術学がご専門の瀬尾文子先生が~礒山雅先生を偲んで~と題してご講義くださいました。

瀬尾先生は、礒山先生の教えで最も心に残っていること2つとして「①常に全力で物事に向かうこと。これくらいでいいと甘んじてしまわないこと」と「②独りよがりにならないこと。常に聴き手、読み手のことを考えて、話したり執筆したりすること」を肝に銘じているとのことでした。

「マタイ受難曲」に比べ、ドラマティックに緊張感を持って進行する「ヨハネ受難曲」。多層構造、シンメトリー構造を孕みつつスピード感とともに進行し、演奏時間2時間という大作です。バッハは1724年から1749年までの長い年月を費やし改定を重ねています。今回楽譜を比べながら受講したことで、稿によってかなりの違いがあることをあらためて知りました。バッハの教会音楽に命をかけて取り組まれた礒山先生。

瀬尾先生は、アリアを中心に取り上げ、言葉と音型と和声の関係、バッハの価値観、美学的意味など深く濃い内容をわかりやすい言葉で噛み砕いてお話しくださいました。

最初に登場するアリアで「喜びのリズム」が優勢になっていく精緻な組み立て。「ペトロの否認」の激しい音楽。イエスの埋葬におけるトンボー(追悼曲)の下降音型、そしてGrab(墓)の歌詞で低音がなくなる(空になる)ことの意味。

39番の合唱、そして終曲のコラールは、礒山先生の追悼演奏会でチェンバロを弾かせていただいた曲。その日のことが胸に蘇りました。

この「復活」のコラール「私はあなたを、永遠にお讃えします」の音楽とともに、予定時刻ぴったりに終えられた瀬尾先生。ご自身の考えをザックバランに織り交ぜながら、決してブレずにテーマに切り込む、見事な講義でした。

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