“特別レッスン” の意味

卒業試験、期末試験、コース試験、入学試験、、、。
「試験」と名がつく行事が好きな人はまずいないはず。
努力を重ねた末の「自信」を武器に、プレッシャーを乗り越え、その先に達成感がある、と信じて練習に励む学生達。

卒業試験を前に、綺麗なドレス姿の学生にエレベーターの中でバッタリ。「緊張する〜!!人生最後の演奏だと思うと、身体が震えちゃう!」と顔面蒼白。

「卒業は最後じゃないよ。これから始まるスタートだと思って楽しんで弾こうね!」とエールを送りました。
「そっか。気持ち、少し楽になりました。」と初々しい笑顔。

試験曲を普段の担当以外の先生にレッスンしてもらえたラッキーな学生達もいます。

その「特別レッスン」を、空き時間に少し拝見することができましたが、若林顕先生の温かいお人柄に接したり、パスカル・ドヴァイヨン先生の知的で具体的な奏法アドヴァイスに感じ入ったり、、、と私達にとっても有り難い機会です。

海老彰子先生は、芸大時代、故 松浦豊明門下の憧れの先輩でした。シューマンの名曲を前に、学生に丁寧なレッスンをされていました。

曲の解釈はピアニストが100人いたら100通り。時々、特別レッスンを終えた学生から「普段のレッスンで先生から言われていることと違うことを言われた」と戸惑ったり混乱して相談を受けることがありますが、20歳を過ぎてからのレッスンは、複数の可能性の中で取捨選択しながら自らの演奏を作っていく学びの機会と言えるでしょう。

海老先生が「あなた、素晴らしいピアノテクニックをお持ちね!」と絶賛した後、「ところで、シューマンの歌曲、何か知ってらっしゃる?」と質問。

「いえ、、」と口籠る学生に対し「ここの出だしの雰囲気は、歌曲を知ればすぐわかるわよ。ピアノではない音を出して。」と厳しいアドバイス。

普段、毎週レッスンしている先生は、「成績優秀」な演奏にまで引き上げるため、エネルギーと情熱を傾け、心を砕いてこられたはず。そんな中、先生は、当然ご自分もそうであったように、シューマンの歌曲に心震わせた経験のある学生がこの曲を選択したと思われていたでしょうし、よもやシューマンの歌曲伴奏をしたことが無い、なんてご存じないかもしれません。

近過ぎて見えない事が、離れたところからは見えるというのは、よくあること。違う視点からの一言や異なる音学観の演奏家からのアドバイスは貴重なことだとあらためて思いました。

それらを若い感性でもって吸収する中で、新たな扉が開けたり、壁をポンと乗り越えるきっかけになったり。

大学は、そのような「進化」の機会を提供する場でもあります。目の前を一瞬で通り過ぎてしまうチャンスを逃さず、貪欲に進んでほしい、と思う今日この頃です。

梅の蕾が春の開花まであと少し、の季節となりました。

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