澤カルテット

耕心館で6時半より、澤カルテットとシューマンの五重奏を共演させていただきました。

プログラムは、前半が、モーツァルトの弦楽四重奏曲 第3番 ト長調 K156とシューマンの弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 作品41-2、後半がシューマンのピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44です。

澤カルテットは、ヴァイオリン澤和樹氏、大関博明氏、ヴィオラ市坪俊彦氏、チェロ林俊昭氏の4人。
1990年に結成されてから20年がたち、揺るがぬ結束と確固たるアンサンブルを確立しておられます。
名手、名器と何拍子も揃った見事なカルテットです。
先週と昨日、芸大で合わせ練習をさせていただき、今日の本番を迎えました。

シューマンの五重奏は、溶け合うような柔らかなロマンと火花が散るような緊張、そしてリリシズムと幻想的なドラマどが混在する名曲です。
澤カルテットは、これまで何度もこの曲を演奏されてきたそうですが、前回の共演者は、イエルク・デームス氏だったそうです。
ゲネプロの最後、チェロの林さんが、「1楽章の出だしだけ、もう1回やっておこう」。と最終チェック。
アンサンブルで、最初のテンポ感がピタっと揃っていることが最も重要な要素だとあらためて実感しました。

たとえば3楽章。
ピアノの1小節に続き、16分音符でいっせいに皆が駆け上がるのですが、少しでも私が早く出てしまったら、それこそ競馬場でゲートが開いた瞬間の馬みたな状況になってしまうわけで、ピアノで開始する楽章は、特に責任重大です。
死刑宣告が出ないよう、落ち着いたコントロールが肝要。

こうやっていろいろ考えると大きなプレッシャーなのですが、ベテラン4人は、楽屋でも控え室でもお食事でもわいわいがやがや、楽しく賑やか。
「あっはっは!」「えっへっへ」「ウァッホッホ」と笑い声が絶えません。

数々の爆笑エピソードに笑い転げているうちに、本番の時間がやってきます。筋肉の無意味な緊張は、演奏の妨げになるのですが、その心配はゼロ。
スリリングな曲にも拘わらず、温かく大らかな名手4人の胸をお借りして、自由にのびのびとした心で弾かせていただき、感謝しています。
こまやかなコンタクトのやりとり、かけあい、引き継ぎ、やりとり。
そして、しかけたり、それに応えたり・・・。
室内楽の喜びを味わわせていただいた演奏会でした。

100619

昼間のゲネプロ。緑豊かな耕心館。窓がそのまま絵の額縁のようです。その中で、演奏したゆったりした一日だったのですが、お一人お一人の多忙さは、半端じゃありません。
芸大副学部長の澤先生も昨日、合わせの直前までレッスンだったり、大関先生と林さんは、なんと本番のあと豊田まで車を走らせ、夜中の12時半に到着だったそうです。

ミューズの国から何かが降りてきた、と思える瞬間がある本番は、年に何度かありますが、今日もそのうちの1回でした。

アンコールはしない予定だったのですが、鳴り止まない拍手に応えて予定変更。
「まもなくキックオフの時刻も近づいてきました。アンコールは、健闘を祈って3楽章」
の澤先生の一言に会場は爆笑。
今日は、大雨注意報が出ていたにも拘わらず、雨も降らずにすみましたし、サッカーで客席は閑古鳥かと思ったら満員でしたし、心配は、杞憂に終わりました。

澤カルテットとは、12月18日に、再びご一緒させていただく予定です。

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