横山幸雄さんのショパン・リサイタル

1910年製のプレイエル。
とてもいい状態でした。
全体のバランスもよく、ショパン時代のプレイエルより、おそらく楽器としての「完成度」も高まり、「性能」も明らかに進歩しているように思えます。
私が持っている1843年製のプレイエルには、くぐもった内的な響き、闇の部分を感じさせるような独特の香りがありますが、きょうのプレイエルは、まろやかに、屈託なく鳴り、クリアな響きを感じました。
第2響板のある、なしによる違いかもしれませんし、演奏スタイルによるものかもしれません。

スカッとするようなテクニックとスピードで、次々に快調に飛ばしていかれる横山さんの演奏を聞き、スポーツ観戦をしたあとの爽快感のようなものを感じました。
「僕のエチュードをリストが演奏するのを好き」
とつぶやいたというショパンの言葉が残っていますが、ショパンもびっくりのスピーディな動きでした。

バラード3番、ノクターン作品48、前奏曲作品45、演奏会用アレグロ、幻想曲、バラード4番、英雄ポロネーズ。

今夜の演奏会で、一番印象に残ったのは、演奏会用アレグロ。
ふだんあまり演奏機会の多い曲ではありませんが、なかなか楽しい曲です。一人版コンチェルトという感じで、華やかな狙いがピタッとはまる曲です。
モーツァルトで言えば、変ロ長調KV333の第3楽章もソロ版コンチェルトですが、さすがに「ピアノの時代」到来とともに、ピアノの詩人が書いたこの曲、テクニカルな華やかさと魅力にあふれています。

アンコールは、ノクターン、プレリュード、マズルカを1曲ずつ。
ソムリエでもあられる横山さんが、次々にワインを持ってステージに現れる感じです。
体力、集中力、多彩な才覚など、現代ショパン弾きの横山さんらしい演奏会。

上野学園の中にある石橋メモリアルホール。
リニューアルしたあと、初めて伺いました。
1階の中央部右寄りの席で聴かせていただきましたが、プレイエルの細やかな高音がスーッと伸びて減衰してく箇所なども美しく響きました。

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