巨匠インマゼール先生と

1945年ベルギー・アントワープ生まれのチェンバロ、フォルテピア奏者で指揮者のジョス・ファン・インマゼール氏が来日されました。
CDのジャケットなどでしかお顔を存じ上げず、その風貌からして、とても怖い神経質な方・・・と想像していたのですが、その逆でした。ユーモアあふれる会話と気取らない温かいお人柄で、楽しく有意義なひとときをご一緒させていただきました。
国立音大の校門に11時に待ち合わせ。お弟子さんでフォルテピアノ奏者の伊藤綾子さんとともににこやかに入ってこられたインマゼール先生。赤いズボンに黒いシャツ、真っ赤なキャリーケースをガラガラガラガラとご自分でお引きになりながらの登場です。
70歳とは思えない軽やかな足取りでキャンパスを縦断し、楽器学資料館に直行されました。
国立音大で昭和62年にレクチャーコンサートをされたことがあり、そのときお弾きになったシャンツ製作のフォルテピアノに再会。三味線や琴、そして初挑戦というテルミンなどでひとときを過ごされました。「指強化器」の展示を前に「先生には必要ない機械ですね。」と申し上げると「これから始めるのは遅すぎる!ふふふ」と冗談。
セレモアコンサートホール武蔵野に移動し、午後からはハイドン・ソナタのマスタークラス。受講生の方が来られるまでの2時間、楽器のことや音楽のことなどいろいろお話しくださいました。プレイエルの第2響板の話題になり「これは僕の考えでは調律が狂わないためにある板だと思う。」とおっしゃって、「この板をはずして録音したとき調律がすぐに狂って大変だった」と。第2響板は音色や響きのためのもの、と信じて疑わなかった私にとって、驚きの発言でした。
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レッスン前、件の赤いキャリーケースの蓋を無造作に開けられた先生。中からは布袋に入った様々な種類のチューニングハンマーがガチャガチャでてきます。ヴァルター・モデル専用のチューニングハンマーを私が持っていたので、けっきょくは、先生のお道具箱は使われることなく終わりましたが、ハイドンに合わせた調律をしてくださってからのレッスン開始でした。いつどこでどんな楽器に出会っても調整ができるよう、常に「お守り」のように持ち歩いておられるのだそうです。まいりました!!!
遊ぶように楽器の前に座り、息をするように自然に奏で、指揮をするように表現されるインマゼール氏の演奏は、聴くものを非日常の世界に誘ってくれます。指揮者としてオーケストラを率いてメキシコ、中国など世界中をツアーで回られておられるインマゼール先生。「時差とか大丈夫ですか?」とお聞きすると「僕は慣れてるから全然平気。オーケストラの若い連中がヘロヘロになってるけどね・・・」と笑っておられます。次の演奏会ではガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」をお弾きになるとか。「巨匠は、音楽も人間も 桁違いに偉大!」と実感する一日でした。

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