ダン・タイ・ソン先生 公開レッスン

梅雨に入り、紫陽花の季節となりました。小雨に濡れる紫陽花の色は格別に美しく感じます。
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6月7日、国立音大でダン・タイ・ソン先生の公開レッスンが行われ、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番のレッスンを拝見することができました。ソン先生はベトナムのハノイ出身。ベトナム戦争時に、少年時代を過ごされ、ソ連に留学。モスクワ音楽院でロシアのピアニズムを短期間に習得し、ショパンコンクール優勝後、確実にキャリアを積んでこられたピアニストです。
1時間半のレッスンは、大きな視点から微細な箇所まで多岐にわたりました。
「ロシアにピアノ音楽が入ってきたのは、バロック、古典のときではなくロマン派の時代。ロマン派からスタートしているということが大きな特徴。そしてロシア人はドイツ人とメンタリティーが異なる。。。」というロシア音楽の潮流の話題から始まり、ロシア独自のロマンティシズムの特色、テヌートの音に対する時間のかけ方、旋律の歌わせ方、音色とタッチ、アクセントの付け方、コンチェルトとソロのときの奏法の違い、指使い、、、等々いかにソン先生が深くピアノ演奏を追求してこられたかが、言葉の端々から伺えました。
私がソン先生にお会いしたのは、学生時代、霧島の音楽祭に参加し、レッスンをしていただいた30年前のこと。ソン先生はご自分に厳しい方、という印象が今も残っています。音楽祭最終日、先生がリサイタルで素晴らしい演奏をされ、拍手喝采とブラボーの嵐が冷めやらぬ中、帰りのエレベーターで偶々お会いしたのです。興奮して「感動しました!」と申し上げると「全然だめな演奏だった。」の一言。芸術家がいかに茨の道であるかを先生の孤高の背中から感じた一瞬でした。
今日は、私のレッスン室の向かいのお部屋でランチ休憩をされておられたので、そっとお訪ねしてみました。
10年ほど前、ハノイで音楽院長をされておられるソン先生のお姉様にお会いし、いろいろお話を伺わせていただいたお礼を申し上げるつもりでした。
ドアを開けるなり、「お~!YUKOさん。30年ぶりじゃないか!」と笑顔で迎えてくださったソン先生。名前と顔を覚えていてくださったのには感激を通り越して驚愕!私の顔も横幅も?!ずいぶんと変わっているはずなのに・・・。おまけに「あのとき、君が弾いたのはスクリャービンのソナタ第5番だったよね。」と曲目まで記憶しておられるのには、茫然としました。凡人のメモリー量とは桁が1000倍違うことを確信。
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音楽への並外れた情熱、コンピュータを超える頭脳、スーパーマンのようなタフさ、そして人への優しさ・・・。
ピアノ界の巨星に、脱帽の至りでした。

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