第 370回 モーツァルティアン・フェライン例会

5月21日、第 370回 モーツァルティアン・フェライン例会が、セレモア文化財団協力のもと、セレモアコンサートホール武蔵野で開催されました。
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「モーツァルトピアノ協奏曲の魅力」と題し、伊藤翔さんと2台ピアノ版で「第9番ジュノム」について、演奏とレクチャーをさせていただきました。
フランスの女流ピアニスト、”ジュノム嬢”の依頼で作曲されたということから、長年「ジュノム」というニックネームで呼ばれてきたこの曲、アイディアの斬新さ、大胆なピアニズム、大規模な構成など、それまでの協奏曲とは一線を画した個性的な作品です。
こんな素敵な曲を捧げられたピアニストは、抜群に上手なピアニストだったに違いありません。
モーツァルト自身もこの曲に自信を持っており、自らも演奏し、カデンツァを複数残しています。
モーツァルトの力作、ということで、きっと若い美人だったろう、という想像が想像を生んで、この曲の魅力とセットで、人気曲の一つとして初期のピアノ協奏曲の中では最も演奏回数の多い曲の一つです。
ところが、ジュノムなる女性については、記録もなく、不明なままイメージだけが独り歩きしていたというのが真実です。そんな中、2004年3月のニューヨーク・タイムスでローレンツ博士の署名入り記事が掲載され、ジュノム・ファンを驚かせました。
ローレンツ氏の説では、「jeunehommeには、若者という意味があり、それを伝記学者、ヴィゼワとサン・フォワが曲解し、「嬢」にしてしまった。そしてこの曲の注文主は、パリの舞踏家でモーツァルトの友人でもあるジャン・ジョルジュ・ノヴェール氏の娘ヴィクトワール・ジュナミーである」というものです。
ジュナミーは、すでに結婚していたので、正しくはピアノ協奏曲第9番「マダム・ジュナミー」ということになります。
しかし、マダムであろうがマドモワゼルであろうが、この作品が美しく魅力的な曲であることには変わりまありません。
第1楽章冒頭の意表をつくピアノ・ソロの登場、第2楽章のハ短調の深い寂寥感、プレストの第3楽章に挿入された優雅なメヌエット、など聴きどころ満載の作品です。
伊藤さんとは、曲の構成、和声、デュナーミクなど、様々議論しながら準備しました。その過程がとても楽しく、ますますこの曲に惹かれた次第です。
「ハスキルの名盤を100回以上聴いた!」という会員の方から「今日のカデンツァはBを使われましたね。」などと。「モーツァルト命!」の会員の皆様との濃いモーツァルト時間でした。

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