第129回 国立音大オーケストラ定期演奏会

今年の夏は早足でやってきました。7月半ばにして39度を観測するなんて、ひと昔前には考えられなかったこと。「30度を超える真夏日」という表現は今では通用しなくなりました。

そんな中、くにたちの若者による熱い演奏会が講堂大ホールで繰り広げられ、会場から熱い声援が送られました。

指揮は、準・メルクル先生です。メルクル先生に、何度か学内の食堂でお会いしたことがあるのですが、お一人で静かに召し上がっておられ、飾り気や気取りとは無縁の自然体のマエストロでした。

2012年の定期演奏会で指揮されて以降、毎年出演。2013年からは、招聘教授として国立音大オーケストラを指導してくださっています。今日の曲目は細川俊夫:「循環する海」とマーラーの交響曲第5番。

作曲家、細川先生も招聘教授として公開レッスンなどを通じて自作について指導してくださっている先生です。折しもこのたびの西日本豪雨で甚大な被害が出た広島のご出身。

岡田安樹浩先生の解説によると、この曲は軽井沢で完成し、ザルツブルク祝祭大劇場で初演されたそうです。「海をテーマとした楽曲が、山岳地帯の町軽井沢で完成され、山に囲まれたザルツブルクで初めて鳴り響いた」と述べておられます。

漸次的に変化する響きに聴覚と身をゆだねているうちに、海の揺れと波動が現前に現れ、霧、風、雲、嵐、雨、、、などの水の循環が、音世界に形を変えて時間とともに経過していきました。
細川先生の音楽的精神を育んだ広島の美しい自然。会場にいらした細川先生はどのようなお気持ちで、今、この作品をお聴きになっていらしたのでしょうか。

休憩をはさんで後半はマーラー。結婚したばかりの美しい新妻アルマへの愛の賛歌とも言われる第4楽章アダージェットは、映画「ヴェニスに死す」のテーマ曲にもなり、有名な楽章です。

以前ウィーンでの演奏会の帰りに立ち寄った ヴェルダー湖畔にある「マーラーの作曲小屋」が心に蘇りました。管理人のおじさんから古い鍵を貸してもらい、中に入り、マーラーに想いを馳せたひととき。自然に囲まれた小さな小さな作曲小屋には、小ぶりのグランドピアノが1台。ここで交響曲第5番のような長大なスケールの作品が生まれたとは信じられないような、つつましい空間でした。

葬送行進曲で始まり、5楽章まで続く難曲に果敢に挑戦した国立音大の学生たちに大拍手!
熱狂、苦しみ、乱舞、夢、憧れ、哀しみ、憂い、、。人生の中で経験する様々な感情が次々に現れるマーラーの音世界に、経験の浅い若者が懸命に体当たりする姿は、尊く美しかったです。

柔らかくアクティブな黒い運動靴で軽やかにステージに登場されたマエストロ。肌理細かく、熱く、確かなタクトで皆の心を一つにしておられました。

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