続々カワイ講座:モーツァルト

カワイの5回シリーズ講座も後半に入りました。
最後の2回は、モーツァルトです。
モーツァルトのソナタの中でも人気の2曲 、ハ長調KV330、イ長調KV331《トルコ行進曲付き》をとりあげました。
かつて、この2曲は、《パリ・ソナタ》と呼ばれたグループに入っており、パリで就活に失敗し、演奏活動に妨害が入り、最愛のお母さんを旅先で亡くし、最後には失恋する・・・という最悪の時期に、こんなに美しい曲が書けた、ということになっていました。
今でもこの2曲がパリで作曲された、と書かれている本も書店に並んでいるのですが、タイソンなどの自筆譜研究により、作曲年代の変更が行われ、この2曲は、パリではなくウィーンに移り住んでから、という説が有力になりました。
ザルツブルクと決別し、ウィーンで自立した音楽家としてのスタートを切ったモーツァルト。
その若きミュージシャンの意気込みと自信とエネルギーがあふれています。

以前、ある巨匠のレッスンを受けたとき、

「研究者がいろいろ言うが、誰が何と言おうとこの曲はパリなんじゃ!
パリで書かれたといったら、パリなんじゃ!
ほら、あちこちにパリのお洒落な雰囲気が漂っておるだろう!」

とおっしゃって聞く耳もたぬ、という感じでしたが・・・・。

また、トルコ行進曲のテンポについて、

「私はすごくゆっくり弾くのが正しいと信じています。遅いといわれるグレン・グールドもまだ速すぎる!トルコの軍楽隊の音楽はゆっくりだったのです」

とアンケートに書いてくださった方もいらっしゃいました。

先日、音楽学研究室のお昼休み、私がウィーン原典版で、トルコ・マーチがそれまでの Allegretto から Allegrino というテンポ表示に変えられていることを指摘し、
なぜなんでしょう?
ということになり、盛り上がったことがあります。

テンポも
「遅くなくては、アーティッキュレーションやニュアンスが出てこないじゃないか」
という意見、逆に、
「あんまり遅いと、短調のところ、かっこつかないですよ」
という意見、
冒頭の前打音も タタタタタン というこれまでの均一的な16分音符の弾き方ではなく、
タタータタタン と、短い前打音が正しい
という主張もありました。

120213

人気曲ですから、これから、さらに、さまざまな解釈が生まれてくる可能性もあります。

音楽は作曲家の手を離れたときから、意味を持ち、そこに解釈が生まれます。
それらを皆で紐解きながら、音符の向こうの心をさぐっていきたいと思っています。

熱心にお聴きくださり、ありがとうございました。

コメント

  1. yuko より:

    Ryuさま
    コメント、ありがとうございます。グールド自身、いくつかの解釈やテンポで録音を行い、いくつかのバージョンの中から選んで編集・構成していったという話を聞いたことがあります。その話が本当かどうかわかりませんが、テンポの設定によって、同じ曲でも全く違う音楽になるほど、たしかにテンポは重要な要素だと思います。ピアノ曲の場合、会場においてあるピアノ、会場の音響、そのほかもろもろの条件によって微妙にテンポは変わってくると思いますが、以前、ある指揮者の方が、その日の天気、湿度によってオーケストラのテンポを変える、とおっしゃっていて驚きました。Ryu様がおっしゃるように、同じ曲を同じ会場で同じメンバーで違うテンポで・・・という演奏会、おもしろいかもしれません。

  2. Ryu より:

    グールドによるモーツアルトの演奏は、テンポに関する限り、作曲家のテンポ指示に忠実だと思います。KV331のロンドはAllegrettoですが、常識的に演奏されるのはAllegroとかMolto Allegro 速いやつだとPrestoです。演奏家によるテンポの改変は他の曲でも常識化していて、有名なKV550の第一楽章は、作曲家のテンポ指示はMolto Allegroですが、たいていの演奏はAllegrettoに聴こえます。楽器の問題なのかテクニックの問題なのか、それとも作曲家のテンポ指示が違っていたのかよくわかりませんが、一度、演奏会で、同じ曲を違うテンポでやってもらえると、いいと思います。

  3. nishisan より:

    そうです。