西方音楽館

江戸時代から続く旧家の蔵がコンサートホールとして生まれ変わった西方音楽館で演奏会に出演させていただきました。不思議な懐かしさを覚える空間で、自然に囲まれた環境のせいか、心身ともにリラックスして臨める会場です。西方音楽館を音楽発信基地として、フォルテピアノやチェンバロなど楽器を学ぶ若い方たち、わらべ歌を習う子供たち、音楽会を楽しみにしておられる愛好家のみなさんの「音楽の輪」が出来上がっているように感じました。
コンサート1曲目は、シューマンの「愛しい五月よ、お前はまたやってきた」で始めました。
シューマンの「子供のためのアルバム」の中の1曲で、私の好きな曲です。
「子供のためのアルバム」は、もともと子供の教育目的で書かれた曲集ですが、単なる練習曲ではなく、ドイツの風物が織り込まれた素敵な小品集となっており、子供のころから時折繙いて愛奏してきたアルバムです。
シューマンは、この曲集の冒頭に「音楽の座右銘」として音楽家になるための心得を書いています。
「敏感な耳、早い把握力が音楽的になる一番肝心な素質である。」
「形式がすっかりわかってはじめて、精神もわかる。」
「天才を完全に理解するのは、天才だけだろう。」 などと続きますが、
最後の文言は
「勉強に終わりはない。」 
1849年に書かれたものですが、ちょうどこの年、盟友ショパンがこの世を去っています。
シューマンは、多くの作曲家について、また作品について批評を書いていますが、ショパンのデビューリサイタルに寄せて「諸君、脱帽したまえ、天才が現れた!」と賛辞を送りました。
同年生まれのシューマンとショパンを続けて弾きましたが、この二人の天才は、かなり異なる個性の持ち主であったことを弾くたびに感じます。
それにしてもドイツには「五月」を讃えた曲が多く、長い冬が終わり、春の花がいっせいに咲き、鳥が鳴く、一年で一番美しい月としています。ドイツ・リートの詩も、「5月に恋が芽生え、冬に失恋する」というパターンが多く、逆の例に出会ったことがありません。
今年のゴールデンウィークは、演奏会などで移動が多く、各地の「5月のそよ風」を感じることができました。
2014-05-08-07-43-11
新緑の桂の葉っぱが2枚風に揺れていました。「私たち、秋までずっと一緒ね!」とささやいているかのように・・・。

コメント

  1. yuko より:

    青春22きっぷ様
    コメントありがとうございます!
    おかげさまで、シューマンの言葉が
    すっと腑に落ちる感じがしました。
    形式に感情がおさまらなくて溢れだしてしまったようなシューマンの音楽とは、何処か相容れない気がしていたのですが、、。
    内容の積み重ねから形式が生まれ、そこに精神が宿る、というふうに考えると源がひとつになりますね。深いお言葉、ありがとうございます。

  2. 青春22きっぷ より:

    「形式がすっかりわかってはじめて、精神もわかる。」に納得です。時間を経て内容が積み重なって形式は生まれ、それがまた内容を深め、精神が宿ると思っているからです。音楽に関わらず、ですよね。
    締め括りの「・・・ずっと一緒ね!」に思わず微笑んでしまいました。ピアノを奏でる方は詩人でもあるのですね。