朝日カルチャーセンター新宿で行ってきましたモーツァルト:ピアノ・ソナタ全曲講座。
第8回の今日は、ウィーンでつくられた名曲、ハ短調 KV457を取り上げました。このソナタは、同じハ短調の ファンタジー KV475に続けて弾かれることが多い曲です。
我が家から地下鉄で5分、ご近所での講座です。スタッフのみなさんとも顔なじみ。
受講生のみなさんとも、第1回のKV279から毎回お会いするたびに、”モーツァルト友だち”という雰囲気になっています。仲良しになり、親しくなっても、とおり一遍の内容ではなく、なるべく斬新な切り口で、新鮮な気持ちでお話ししたいと毎回思っているところです。
蒸し暑くなってきた今日この頃、涼しげな曲だとよかったのですが、ハ短調の熱いソナタとなりました。
優秀な女弟子、トラットナー夫人に献呈されたこの曲。モーツァルト絶頂期の名作で、何度弾いても汲みつくせない魅力を感じます。
1990年、モーツァルトの没後200年を前に、この曲の自筆譜が発見され、ロンドンのオークションで2億円を超える高値で落札されたというニュースが流れました。
このとき発見された自筆譜によると、ファンタジーは、ハ短調の調号であるフラット3つで書き始められた後、フラットを消して調号変更したことがわかりました。次々に転調していくので、調号なしのほうが良いと、モーツァルトが判断したと思われます。
ファンタジーは、ドイツ語のファンタジーレン(即興する)を語源とする変幻自在なジャンルの作品。気持ちの赴くままに色を変え、雰囲気を変え・・・という特徴が作曲過程にも出ていたというわけです。
オペラの場面が次々にオムニバス形式で出てくるような曲で、そのアリアがどういう歌なのか、舞台がどんな場面なのか、と想像しながら弾くのは楽しいものです。
KV457のピアノ・ソナタは、自筆譜と初版譜では難易度が違います。
一般向け?!に、少し楽に弾けるようにしてある初版譜と、天才ピアニストであるモーツァルトが自分用に書いた自筆譜。
異なる部分を両方演奏すると、肉体的にかなり違うことを痛感します。
「出版する」ということは、自分を見つめていた作曲家が、楽譜の購入者層や音楽社会を意識する瞬間なのでしょう。出版社の意向によって、作品の内容が変わったり、妥協を余儀なくされたりする時代だったのかもしれません。
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