国立音楽大学・講堂 で開催される、楽器学資料館主催コンサート。
6月27日公開ゲネプロ、28日の本番を前に、準備の最終段階に入りました。
技術スタッフのみなさん3人がかりで、5台の楽器を手分けしながら調整作業中です。
5台のうちの1台、1820年製シャンツは、5本のペダルを持つウィーン式の楽器です。
ウィーンナーメカニックの調整が大変なことは、昨年のリサイタルで1829年製のベーゼンドルファーを弾いたときから痛感していますが、今回も、さまざまに課題や問題個所が出てきます。
七夕を前に?!ポストイットの短冊に、奏者である私から技術者の方へのお願い事を書いて貼っていきます。
以前、調律師さんからドイツで修行中のときの笑い話を聞きました。
各鍵盤にドイツ語で書かれたお願い事のシールを見て、意味がわからなかったので、家に持ち帰り、辞書で意味を調べようと思って全部はがしてしまった・・・。
家に帰って意味はわかったけれど、どの音へのお願い事なのか、まったくわからなくなってしまって、平謝りだったそうです。
資料館の楽器というのは、基本的にオリジナルの状態での保存が使命ですので、音さえ出ればよい、というような勝手な直し方や改竄は許されません。
演奏を主に考える個人が好きにしてよい楽器とは、コンセプトが根本から違います。
同時に、コンサートを行う以上、良い状態で演奏ができなければする意味がないわけで、そのあたりが一番のご苦労かと思います。
そして、博物館に入ってくる前の段階で修復が施されている場合には、オリジナルの部分と後世の手が加えられた部分との間に、音色の差が生じています。
クロスが直されている部分、皮が張りなおされている部分が、ほかの場所とは違う音になっているわけです。
私自身は、歴史的楽器は、その時代のオリジナルに近い状態への修復が、その楽器の個性と音色を最も発揮すると考えています。
現代の弦を張ってしまえば、音量は出るかもしれませんが、音色が出てきませんし、ハンマーの質を変えてしまうと違う感触になってしまいます。
ただ、すり減ったり、壊れた部分もそのまま残す、という考え方は賛成できません。それではオリジナルの音が出てこないからです。
名器が当時奏でていた音を再現するべきだと思うのです。楽器の命を蘇らせるというのは、放置することとは対極にあるのかもしれません。
いずれにせよ、技術者の方は、気の遠くなる作業の繰り返しです。トルコペダルの装置も膠付された箱の中に入っていますから、懐中電灯や細い器具を使って、中の調整を行わなければなりません。
鋭い耳と目と経験を持ち体力のある技術者のみなさんが、それぞれに知恵を出し合いながら、ベストの状態に・・・ということで力を尽くしておられます。
演奏、芸術に終わりがないのと同様に、調整もこれで良し、というポイントはなかなか見えてきません。現代の楽器の調整のようにはいかないのは当たり前で、現状を把握し、うまくいかない箇所の原因を究明し、それに対処する、という作業が延々と行われていきます。
そんなやりとりの中で、これまで知らなかったことを教えていただいたり、未経験の楽器の中をチェックしたり、こまかなニュアンスを出すための方法を模索したり、・・・・気力と根気が求められますが、とても楽しい世界です。
今回は、申込開始後すぐ満員御礼の札が出てしまい、お入りになれない方のために、急遽、前日に公開ゲネプロが行われることになりました。
27日(木)朝8時の搬出を待つ楽器たち。
最高の状態で皆様にお披露目できるよう、スタッフの皆さんと一丸となってがんばります。
28日(金)のコンサートは、前もってお申込みいただいた方へ大学から送られた整理券が必要ですが、前日の公開ゲネプロは、どなたでもお入りいただけます。
国立音楽大学講堂で、27日(木)5時開演ですので、お時間の許す方はお出かけくださいませ。
コメント
そうなんです。技術者の方の根気と体力と情熱には、感服です!
気の遠くなるような作業ですか。