ミハイル・プレトニョフ ピアノリサイタル@さくらホール

7月5日、渋谷の さくらホールで開催されましたミハイル・プレトニョフ氏のリサイタルに伺いました。
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プログラムは、前半がバッハ(リスト編曲)とグリーグ、後半がモーツァルトのソナタ3曲。
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大学の授業が夕方まであり、6時半の開演には間に合わず、3曲目からの入場。さくらの木でできたホールに入るやいなや、その美音で異次元に連れていかれたような感覚に・・・。〈ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード〉は、初めて聴く曲でしたが、そのロマンティシズムと歌唱性に引き込まれました。
小宮山淳さん調律のカワイSK-EXは、プレトニョフ氏の多彩なタッチに寄り添い、曲が進むにつれ空間が柔らかな響きで満たされていきました。
後半のモーツァルトは、KV311、KV457、KV533/494 という組み合わせ。間にハ短調を挟み、時代順に並べています。
古楽器演奏家は、繰り返しの際、装飾を加えるというスタイルがほとんどですが、プレトニョフ氏は「繰り返し」そのものを一切しません。「現代1回完璧主義?!」の演奏です。そういえば、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の録音でも プレトニョフ氏は中間にあるプロムナード(冒頭とほとんど同じ曲)を省いています。氏の感覚では「繰り返し」は無駄と判断しておられるのか、冗漫に陥ることをよしとしないのか、時間を切り詰める理由があったのかはわかりません。
プレトニョフ氏の若い頃の演奏は、強靭なタッチとともにスケールの大きな音楽を構築していたように記憶しています。その確固たる安定感の上に、ロシアンピアニズムの完璧なメカニックと抒情が融合されいる点では変わらないのですが、年を重ねて「演奏における自由」を獲得しているかに見えました。書で言えば、楷書から草書への変貌です。テンポや拍子、いわゆる小節線に縛られない演奏は、あたかも語りを聴いたり、絵画に魅せられたり、夢を見たりする感覚に近く、極めてファンタジックなモーツァルトが繰り広げられました。
セクションの変わり目や重要な音の前後に大胆な間をとり、アゴーギク(テンポの変化)も変幻自在そのもの。刷毛でなぞるような軽やかな音と 重心を落とした深い響きが交互に現れ、光と影、静と動の対比が見事。実にわくわくする演奏でした。
美しすぎる超弱音から最高のアルファー派が出ていたためか、少し離れた斜め後ろの座席からずうっと鼾の伴奏が聴こえていたのは、ちょっと残念。でも鼾のご本人様は、最高の子守歌とともに極楽状態のリフレッシュになったに違いありません。。。
河合楽器製作所創立90周年プレ・イベントとしての今日の演奏会。音楽関係者で会場は超満員。大学時代の恩師、演奏会でお世話になったホールの方、音楽評論家の先生、ピアノの調律師さん、音楽月刊誌の編集の方など、久しぶりに再会することができ、嬉しいひとときでした。

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