ショパンが愛したピアノ@楽器学資料館

5月24日夜、25日午後の2回にわたり、国立音楽大学楽器学資料館において「技術者と演奏家による歴史的ピアノワークショップ〜ショパンが愛したピアノ〜」が開催され、技術者の太田垣至さんと共に出演させていただきました。
申し込み開始日に定員に達し、お入りいただけなかった皆様には、この場をお借りしてお詫び申し上げます。

シャンツ(1820年製)、グラーフ(1839年モデルのレプリカ)、プレイエル(1848年製)、プレイエルのピアニーノ(1840年製)、エラール(1850年製)、ブロードウッド(1850年製)の6台を使用。館長の中溝一恵先生が開演前に「ショパンの人生を楽器で辿る90分としては、最強のラインナップがそろいました。」とご挨拶。

ワルシャワ時代のウィーン式アクションの軽やかさ、ウィーンデビューのときのグラーフの美弱音、パリ時代の香り豊かなプレイエルの音色、マジョルカ島のショパンに寄り添っていたピアニーノ、ダブルエスケープメントを備えたエラール、そしてロンドンでの演奏会に使った楽器と同型のブロードウッド。ピアノとともに生き、ピアノとともに天国に旅立ったショパンの命と想いが、それぞれの楽器の音色から浮かび上がるようでした。

太田垣さんは、二通りの修復の考え方を説明。オリジナルの状態を生かして「保存(たとえ演奏が不可能だとしても)する」方法。もう一つは、たとえ部分的にオリジナルと同じ材料でないとしても演奏しやすいように「修復する」方法。楽器学資料館は、前者の考えに基づいているので演奏に困難を伴う、と。もっと弾きやすくなるようにしてしまうことは不可能ではないが、オリジナルから離れることを避けるため、こういう催しの度に先生にはご苦労をおかけしています(笑)と。技術者として「奏者が弾きやすいよう調整したい」気持ちと楽器保管責任者としての狭間で忸怩たる思いもあることを率直に述べてくださいました。

価値ある歴史的楽器は、その時代の資料、学問的見地、残された設計図など様々な研究の末にその歴史が守られ、音色を蘇らせていきます。けれど実際にその時代に生き、音を聞いていた人はこの世におらず、工房で制作し音を作っていていた人も今は存在していません。その中で、本当の「正解」を模索しつつ、気が遠くなるような作業を繰り返す修復家としての毎日。

古典の演奏家にも同じことが言えるかもしれません。作曲家が揺れる感情を「楽譜」に残し、演奏家はその逆の道をたどって楽譜から想いを再現する。。。
夜想曲、即興曲、前奏曲、練習曲、ワルツ、マズルカを演奏しながら、楽器が教えてくれることの大きさをあらためて感じ、19世紀サロンの雰囲気と19世紀ピアノの響きを会場の皆様と共有させていただきました。

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