ハイドン:アン・ハンターの詩によるカンツォネッタ集

神戸倶楽部での演奏会を終え、翌朝東京へ。サローネ・フォンタナに直行しました。ソプラノの原謡子さん、杉本周介さんのフォルテピアノ(シュタイン・モデル 春山直英氏製作)でハイドンのカンツォネッタを聞くためです。

サローネ・フォンタナの前身は、生前イエルク・デームス先生が活動の本拠とされていたサローネ・クリストーフォリ。オーナーが変わられ、サロンの名前も変わりましたが、建物の雰囲気はそのまま。デームス先生愛用のベーゼンドルファーもそこにありました。

ホールのドアを開けると懐かしさで胸がいっぱいになり、デームス先生のお声が聞こえるかのよう。何度かローゼンベルガーのフォルテピアノで演奏会をさせていただいた日のことが蘇りました。
今日の演奏会は「ワンダー 写真と音楽の対話」というタイトルで藤井春日さんの写真展「森と少女と永遠と」オープニング・イベントの一環です。森の中に佇む少女や幻想的な八ヶ岳の風景に囲まれながらの音楽会でした。

プログラムは、ロンドン滞在中のハイドンが英語の詩に曲をつけた歌集です。歌詞は『森の花』という詩でデビューした女性詩人アン・ハンターによるもの。
夫のジョン・ハンター博士が狭心症で急逝し、突如未亡人になった彼女のブラックヒースの小さな家を訪ね、彼女の詩に寄り添う曲を作ったハイドン。
「さすらい人」「田園歌」「心地よい苦痛」「回想」「精霊の歌」「人魚の歌」「絶望」「誠実」「おお、快い声」。全曲通して生で聴いたのは初めてでした。

ロンドンでは、ジョン・ブロードウッドの工房近くに居を構えたハイドン。晩年の力強いハイドンのピアノ・ソナタを弾いていると、頭脳明晰、エネルギッシュで自信に漲る大家のイメージが浮かんでしまいがちですが、この9曲の愛に満ちた歌曲を聞くと、ハイドンの別の一面が見えてきます。

ロンドン滞在を終えウィーンに帰り、オラトリオ「天地創造」を作曲するハイドン。膨大な器楽作品の光の陰に、美しい声楽作品があったことを再認識。言葉に寄り添うデリケートな和声、調性。情景を音楽で表現するハイドンのずば抜けた才能に引き込まれました。謡子さんと杉本さん、お二人の表現によって浮かび上がったハイドンの「愛の世界」。

終演後、楽譜を見つつ、お二人とハイドン談義。
大好きな「人魚の歌」を口ずさみながら、久しぶりに再訪できたサローネ・フォンタナを後にしました。

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