第59回「夢塾」

「夢塾」と書いてムジーク。
オーナーの笠原さんのネーミングの素晴らしさです。
楽屋には、笠原さんの水彩画や水墨画が飾られています。

今日は、トロイメライ(夢)やアラベスクなどシューマンの小品、
そしてメンデルスゾーン、ショパン、リスト・・・と
ロマン派の作品を並べました。

20人から30人、というサロンは、お互いの顔も息遣いも見える中での演奏です。

ピアノは、チャレンというイギリスのピアノ。
この数年でぐっと音が良く響くようになってきていました。
ところが、夏の暑さのせいで、膠が溶けたのか、演奏途中、鍵盤の象牙がひとつはずれ、パーンと上に飛びました。「革命のエチュード」の蜷局を巻くようなパッサージュの最中でした。
演奏を止めずに、右手でそのはずれた鍵盤をつかんでピアノの上に置き、何事もなかったように弾き続けたので、どなたも気付かなかったのですが、打ち上げでは、その話で盛り上がりました。

「運動神経がいい」
「きっと飛んでる蚊や蠅もつかめるに違いない」
などなど。

そういえばドイツの巨匠がレッスン中、ピアノに飛んできた蠅をつかみ窓から外に逃がしてやったときは、驚きました。
「蠅がつかめるくらいの能力がないとピアノは弾けんのじゃよ」
と巨匠は涼しい顔でしたが、さすがに、私はそこまではできません。

いろいろハプニングもつきものの本番ですが、
心に届いているというたしかな実感とともに演奏するときは、音にもそれが現れ、目には見えないけれど、強い絆でお客様と結ばれるような感覚になります。

夢塾も10年になりました。
「久元祐子さんは進歩し、深みを増している。それを我がサロンでこうして毎回聞くことができるのは嬉しい」
とオーナーの笠原さんのお言葉。
ありがたいことです。

コメント

  1. nishisan より:

    鍵盤の象牙が外れても
    革命を弾き続けられるのですか!
    河島英五のコンサートを
    前のほうの座席で聴いていたとき
    ギターを猛烈にかき鳴らしながら
    歌っていたその瞬間、
    弦が切れたのです。
    それでもなお、弾き、歌う彼に
    聴衆が一層感動したこと、
    涙が止まらなかったコンサートは
    初めてでした。
    久元さんの夢塾を読みながら
    思い出しました。