ヴィジェ・ルブラン展

三菱一号館美術館の企画は、いつも斬新な切り口で楽しませてくれます。
今日は、18世紀のフランスの女性美術家に焦点を当て、マリーアントワネットお抱えの画家、ヴィジェ・ルブランの作品23点を軸に、女性ならではのこまやかな感性と筆致の作品約80点が並べられました。

1755年生まれというとアントワネットと同い年、そしてモーツァルトよりひとつ上。
先日、ナンネルの映画がありましたが、当時の女性芸術家は生き残っていくのに大変な困難な道のりがあったようです。
画商と結婚し、ルイ16世の宮廷に出入りし、名声を勝ち取りますが、1789年のフランス革命で亡命。
ここからが彼女のたくましいところで、貴族の時代から市民社会に移ろうとしていた激動期を生き抜き、イタリア、オーストリア、ロシアなどで創作活動を続け、王政復古後の故国に戻ります。

色合いの美しさは、目を見張るばかり。
絢爛豪華なヴェルサイユ宮殿の中にあってもなお精彩を放つような、しかも上品な色合いは、見事です。
下品な投げつけるようなタッチは、まったく見られず、色合いも柔らかで心地良いロココの色合い。
独特のブルーは、なんともいえない魅力を放ち、幻想的な気分に誘ってくれました。
マリア・テレジアに送るために描かれたマリーアントワネットの肖像画は、表情の中に内面の心情が面に出ている親しさがあり、二人の精神的交流が窺えます。
ポリニャック公爵夫人などサロンの華の女性たちが美しく描かれ、着飾った貴族たちが、写真をとるかわりに、肖像画を描いてもらっていた、その時代の空気が伝わってきます。

もっとも興味深かったのが、作曲家ジョヴァンニ・パイジェッロ(Giovanni Paisiello 1740 – 1816)の肖像画です。
パイジェルロは、モーツァルトの同時代の作曲家の中でも才能のあった人物で、私のウェブサイトでも取り上げていました。

http://www.yuko-hisamoto.jp/comtp/paisiello.htm

paisiello

しかし彼の肖像画を描いた画家のことは知りませんでしたので、その絵が今、目の前にあるというのは驚きで、感動しました。
パイジェルロも、支配者が入れ替わった激動の時代を生きましたが、ルブランと異なり、人生の最後は悲劇的だったようです。
しかし、この絵では、オペラの譜面を前に、鍵盤に指を乗せ、何かの光に向かって振り向くかのようにナイーブな瞳を投げかけていました。

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