「ポッペアの戴冠」

国分寺のいずみホールで、モンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」(短縮版)が上演されました。
昨年12月、須坂で行われた話題の公演をさらにバージョン・アップ。満を持しての東京公演です。
会場は、補助席が出るほどの超満員でした。

声楽陣は、国立音大の若手ホープとして活躍中の面々。バッハ演奏研究部門の研究員でもあります。若い彼らが実にがんばっていて、このオペラのために全力で準備してきたことが伝わります。
一方、それを支える器楽陣は、指揮とチェンバロの渡邊順生先生、ヴィオラ・ダ・ガンバの平尾雅子先生、リュートの金子浩さんはじめベテラン揃い。渡邊先生の長年のモンテヴェルディへの傾倒と夢が、素晴らしい公演に結実しました。

これまで何度かアリアを伴奏したり、現代楽器での公演には接したことがあったのですが、楽器が違うと印象がまったく違ってきます。あらためてイタリア初期バロックの巨匠がつくり上げた世界に引き込まれました。
情感、官能、心の懊悩を抉り出し、開示する音世界。
舞台は、左に器楽陣を配し、右に字幕、中央にソファーひとつ。大掛かりな装置はなにひとつありません。
まさに「音楽の力」を感じる一夜でした。

「”水戸黄門”でも”あんぱんまん”でも勧善懲悪の世界。越後屋やばいきんまんが勝つことがないのがおかしい!と思ってテレビを見ていました、オペラの世界でもほとんどがそう。けれどありました!恋人を裏切り、色仕掛けで皇帝を篭絡、哲学者を自殺させ、皇后を追放、お后の座に上り詰め・・・という世紀の美女、悪女のお話です」
会場は、一機にポッペアへの期待がふくらみます。
2幕前には、
「このオペラは、甘い官能的なシーンの連続、75歳のモンテヴェルディ、とても後期高齢者の作品とは思えません」
で会場は大爆笑。
偉大な晩年の名作が、礒山雅先生のお話でぐっと身近になり、モンテヴェルディのファンが増えたことは間違いありません。

ポッペア役を熱演した阿部雅子さん、ネローネを色仕掛けで篭絡するシーンもうっとりするような妖艶さで迫真の演技です。
「親にだけは見せられない」
と、おっしゃっていたそうですが、何とお母さまが北海道から公演を見にこられ、満席でほかに席がなかったため、一番前で見ておられたそうです。
終演後、ポッペアから若い綺麗なお嬢さんに戻っていた阿部さん、見事な歌唱と演技で聴衆を魅了してくれてありがとう!

美徳の神で愛欲を戒めていた1幕と打って変わって2幕で快楽に身をゆだねる侍女に早変わり、という対照的な2役をこなした山崎法子さんとは、8月にモーツァルトのリートでご一緒する予定です。
今からとても楽しみです。

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