フランス人と万年筆

フランスに長くいたことがある知人から聞いたのですが、フランスでは、小学校の高学年になると、万年筆を使うのが必須だそうです。
とくに、ディクテ(先生が読み上げる文章をそのまま正確に記述する)や書写などの場合には、必ず万年筆を使うように言われるとか。
たしか、パリに行ったときに、さまざまな色のカートリッジを売っているお店があって、果たして商売が成り立っているのだろうか、と不思議に思ったことがあったのですが、その背景には、フランスの人々が、子供の頃から万年筆を使う習慣を身につけているという事情があるのかもしれません。

翻って、我が国ではそのような教育は行われないようです。今年は、新年から大学の筆記試験の採点に追われたのですが、学生の答案のすべてが、シャーペンか鉛筆で書かれていました。
 いちがいに決めつけるわけにはいきませんが、小学生が万年筆を使っている国と、大学生が鉛筆で答案を書いている国とでは、やはり何かが違っているような気がして、複雑な気持ちになりました。
万年筆を長く使っていると、頭の中でまずしっかりと文章を組み立ててから書き始めるという習慣が身についていくことでしょう。
そして鉛筆で書く習慣が付いている人は、消しゴムで簡単に消せるので、書きながら修正していく習慣が身についていくことでしょう。
ワープロソフトなどパソコンで文字を入力する時代ですから、どちらでもよいのかもしれませんが、万年筆で論文を書いたり、手紙を書いたりできるということは、やはり意味があることではないかという気もします。

私のモーツァルトのCDのジャケットは、坂口紀良先生のガラス絵を使わせていただいています。
ガラス絵は、鏡の裏に回って乗せていく感じで、すべて逆から書いていかれる独特の手法です。
まさに即興の世界、書き直しや訂正は一切ききません。坂口先生はフランスにいらして、独自の世界を築いてこられ、日本にもたくさんのファンをお持ちです。
演奏も1回の勝負、まさに万年筆やガラス絵の世界と言えましょう。

コメント

  1. yuko より:

    先日、学生と話していたら、万年筆と急須を使ったことがない人がほとんどでした。
    ボールペンとシャーペンとペットボトルのお茶だそうです。
    そうかと思うと知り合いの男性で、いつも巻紙に筆で手紙を書く人がいます。彼曰く、字が下手でもうまく見える、というのがその理由だそうです。

  2. nishisan より:

    フランスと万年筆、
    そうでしたか。
    久元さんの思いが良く分かります。
    受験生は今、
    鉛筆よりもボールペンの時代だと
    思い込んでいました。