CM用録音・初体験

今日は、麻布台のサウンドシティでCM用の録音でした。
編成は、ピアノ、クラリネット、ヴァイオリン、それにチェロです。

駐車場付近でヴァイオリンを手に持った男性にお会いし、
「今日はよろしくお願いします!」
と挨拶。
「こちらこそよろしく!このエレベーターは遅いんです。楽器用だから。僕ボタン押して待ってますよ」
と、数分ボタンを押したまま待っていてくださる親切なミュージシャン!
今日は楽しく録音ができそう!と、思っていた矢先、なんと今日は私一人の録音ということが判明。
くだんのヴァイオリニストは、ほかのスタジオへと入っていかれました。出ばなをくじかれた感じでしたが、気を取り直してスタジオに入るとすでに作曲家、プロデューサー、電通のスタッフの方たちがスタンバイしておられ、打ち合わせに入ります。

ふだんのクラシック演奏とはまるで180度真逆の世界。

ラフな譜面がメールで届いたのが3日前。ブラッシュアップした譜面が昨日届き、フルスコアーは1時間前にアイパッドに届き、録音直前に追加譜面が渡される・・・という具合です。
古典を演奏会にかける、となると、名探偵ホームズ(?)のような目つきで、楽譜をくまなく時間をかけて読み解き、数週間、曲によっては、半年ほども時間をかけて音にしていきます。その間、自筆譜、筆写譜、初版譜の違いを比べ、作曲の過程に思いを馳せ、その頃の作曲家についてあらゆる情報を知ろうとします。
それが普通のことなのですが、その普通と思っていることと逆のことが、この世界の常識のようで、
「昨日、久元さんが弾いてくれることがわかったので、ここの部分、モーツァルト風のパッセージを加えてみた」
とのこと。そんな~~!

「すみません。切り貼りしますので、糊とはさみありますか?」
と言うと、
「はい。どうぞ」
と、まるで私の行動を見越していたかのように、1秒後には録音スタッフの方から切り貼りのお道具が出てきます。
「初見で弾くなんて・・・」
と思いながら、切り貼りしながら考えました。
「いや、待てよ。モーツァルトの時代も、もしかして『いや~、遅くなってごめんごめん』」とモーツァルト氏が入ってきて、楽団の皆に楽譜を渡すなんてシーンがあったかもしれない」
などと。
昔に作曲された曲を弾くのと違って、現代の曲の場合は、演奏会ギリギリに出来上がるなんてこともあるくらいですから。

10分ほどいただき、譜を読み、指使いを考え、防音扉の向こうのブースに入り、孤独に弾き始めます。
あとで他の楽器を加えていくので、クリック通りのテンポで弾くことが要求され、ヘッドホーンをつけてスタインウェイに向かいます。
クラシックとちがい、秒数が決められていて、属和音で終わる、という具合。
ハーモニーの解決をせず、終止形とならずに終わるのです。
長年この業界にいらした女性プロデューサーさんは、
「そういえば、私たち、ポーンポーンと投げて終わりよね」
とのこと。
CMは、ほとんどがそうなっているそうです。

息遣いが命のクラシックとビートが命のポップスの世界。
地球の裏側と表くらい違うのですが、逆に新鮮で、和気藹藹と録音が進み、
「ハイOK!」
が出てスムーズに終了。
クラシックのCDリリースは、編集やチェックに時間をかけ、ジャケット制作や解説文執筆もあるため、リリースは半年先くらいになります。録音のことを忘れたころにCDショップに並びます。
ところが、今日弾いた曲は、もう2週間後にはオンエアされているのだそうです。
土曜日朝、人気番組「ぶらり途中下車の旅」の中での30秒CMです。

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