セレモアコンサートホールに於きまして「名器の調べ・ピアノは語る」と題し、古の響き、現代の響きを聴き比べていただく演奏会を開催いたしました。
プレイエル(1843年製)は、10月末に、「かなフィル室内楽シリーズ」で横浜のフィリアホールに運び入れての演奏会以来ですが、不思議によく響くように楽器が変化しており、驚きました。大きな空間に持っていくと楽器がその空間に合わせた響きになって帰ってくるのです。それに加え、フィリアでは、若き日のショパンが作曲した情熱的なピアノ・トリオなど、ハードな作品を取り上げたせいで、楽器の反応がアクティブになったように思えます。
シングルエスケープメント機能しか持たないプレイエルは、現代のダブルエスケープメント機能を持つピアノに比べると連打がききません。ですから、プレイエルを使ってのソロの演奏会のときには、連打があまり出てこない曲を選ぶことが多かったのですが、室内楽では、そうも言っておれず、連打の連続などというパッセージもこなさなくてはなりません。
そのおかげか、今回、楽器が底力を発揮してきたのです。負荷がかかりすぎると楽器にとって苦痛となりますが、ある程度鍛えることで楽器が育つ、ということがあるのかもしれません。箱入り娘のように大事にしすぎると、本来の楽器の力が出てきません。そのあたりの加減を調整しながら、荒い響きにならないよう、つきあっていきたいと思っています。
現代のベーゼンドルファーでは、シューマン、リスト、ヨハン・シュトラウスなどを演奏。「寒い季節には、ぬくもりのあるベーゼンドルファーの響きが、心を温めてくれる」とベーゼンドルファーのファンの方がおっしゃっていましたが、同感です。怜悧な曲や打楽器的な効果を狙う鋭い曲は不得手な楽器ですが、ウィーンものの香りを出す点では、追随を許しません。
冬の午後、お客様とともに過ごした温かい一日でした。
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