ピアノ・リテラチュア

一昨年、昨年に続き、モーツァルトの3回シリーズの講義の第1回。
ピアノリテラチュアは、1年間全26回を8人の先生で受け持ち、ピアノ音楽の流れを体感してもらい、理解を深める目的で開設された講座です。

先週の武久源造先生のバッハに続いて、モーツァルトを担当させていただきます。ピアノ科3年生が対象のこの授業。
「モーツァルトは嫌い」という学生さんが一人。
「なぜ?」と尋ねると
「自分はスケールが苦手だから、聞くのは好きだけど弾くのはキライ」という答えでした。

なるほど・・・。なかなか鋭い答えです。

スケールが出てこないモーツァルトなんてありませんから。
そして現代のピアノでこのスケールを宝石のように弾くのは至難の業。
国立音大でもスケールメイトというスケールの教則本があり、
副科のピアノ試験でも当日調が指定され、必ず通らなければならない関所です。

巨匠のレッスンを受けたヴァイオリニストの友人の話ですが、モーツァルトのヴァイオリンソナタのレッスンに行ったらまずスケールを弾かされる、そこで一つでも下手な音を出そうものなら
「モーツァルトを弾く資格なし」
と言ってドアから退散させられるそうです。

大学は、演奏の基礎を身につける場所でもあり、管楽器棟からは、ときどき一所懸命スケールを練習する音が聞こえてきたりします。
大音量の楽器などは、半径数10メートルにわたって轟きわたるようなスケールです。
キャンパスを歩いていてなんとはなしに耳に入ってくるので、そのスケールに合わせて歩いていたりすると、最後の音でコケてしまい、自分も一緒に転けそうになったりします。
「がんばれ!」とエールを送りながら、また歩き出したり。

デームス先生の夏期合宿に行っていたとき、私が朝、指ならしのスケールを練習していたら、先生が茹で蛸のような真っ赤な顔で入っていらして
「ピアニストは、スケールの練習をしてはならない!”音楽”を弾けるようになった人間は、機械的な音は一切出してはならんのだ!」
と叱られました。

「ピアニストの指はバッハでつくる。ツェルニー練習曲は馬鹿をつくる。スケールは機械をつくる」
のだというのは、デームス先生のお考えでした。

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