山響楽器ベートーヴェン・セミナー@オンライン

先日北海道で行ったベートーヴェンのセミナーを今日はオンラインで。
実際に6台の歴史的ピアノを使用しながらの講座でした。受講してくださったのは、主に横浜の山響楽器に所属していらっしゃるピアノの講師の先生方。

ベートーヴェンは、鍵盤楽器の変遷の時代を生き、創作しました。偉大なピアニストとして音楽家のキャリアをスタートさせたベートーヴェン。それぞれの時期の鍵盤楽器の特徴が、実際の曲といかに深く結びついているかを浮き彫りにすることを目指しました。

ベートーヴェンが少年時代に親しんだクラヴィコードに始まり、チェンバロ、フォルテピアノ(シュタイン、ワルター、エラール、ブロードウッド)、それら歴史的ピアノからの学びを現代ピアノの演奏に生かす、というスタンスで。

私自身、現代のベーゼンドルファー・ピアノと歴史的ピアノを行ったり来たり。そして出版譜と自筆譜ファクシミリを行ったり来たり。
2時間休み無しで、パソコン、アイフォンを駆使し、それらを追いかけながらの撮影を担当してくださった編集担当のOさんの運動量は、いかばかりだったかと。。。

最後に講師のピアノの先生から鋭い質問が。
「けっきょく、こんなにいろいろな楽器を使ったベートーヴェンが、一番愛したのは、どのピアノなんですか?」

初期のソナタ《悲愴》や《テンペスト》を書いた頃使っていたのはウィーン式アクションのフォルテピアノ。けれど「膝レバーなんか嫌だ。僕はハイドン先生が使っているようなウナコルダ(足ペダル)がついているのが欲しいんだ!」とベートーヴェン。そんな折、はるばる足ペダル付きのイギリス式アクションのエラールがパリから到着。喜び勇んで書いた《ワルトシュタイン》や《熱情》。けれどすぐに楽器に不満を抱き始め、今度はウィーン式アクションのピアノを借りて《皇帝》や《告別》を書き始めます。そして最後のソナタの作曲は再びイギリス式アクションのブロードウッドで。最晩年のベートーヴェンには、グラーフの特注ウィーン式ピアノ。

「いったいどの楽器が一番好きなんだ?!」
この質問は、本当に的を得ています。

常に現状に満足することなく、製作者に理想を要求し、改良を求めたベートーヴェン。この我儘なやり取りこそが、ウィーンのピアノ界の進歩につながったということかもしれません。

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