キエフの大門

平和の祭典、北京オリンピックの閉会式が終わったのも束の間。ロシアによるウクライナ軍事侵攻のニュースが飛び込み、暗澹たる思いです。凄惨な街の様子、嘆き逃げ惑う人々、失われる尊い命。。。信じられない暴挙への憤りを覚えます。

1991年春、ソ連を演奏旅行した際、空港に降り立つ直前に見た広大な自然は忘れられません。ペトロザボーツク、レニングラード、リガなどを回り、コンサートの後は各地で食事やお酒を共にし、ソ連の方々と語り合いました。「私達は国の政治を恥ずかしく思っています。けれど私達はロシア芸術を心から誇りに思っています。」と語っていたマエストロ。帰国した半年後、「ソ連崩壊」の4文字が新聞の見出しに踊りました。

あれから30年。プロコフィエフ、チャイコフスキー、ムソルグスキーなどロシアの作品を弾く時には、巨大なクレムリンの建物や肥沃なロシアの大地、悲しい旋律の民謡、想像を絶する美しいバレーの舞台などが蘇ります。

美しい古都キエフの街に一日も早く平和な日が戻ることを祈らずにはおれません。
「キエフの大門」は、ムソルグスキーの10曲からなる組曲《展覧会の絵》の最後を飾る名曲です。
ロシアで買った自分へのお土産は、赤い表紙の自筆譜ファクシミリ。

ムソルグスキーの親友の画家ガルトマンが、キエフのボガティル門再建のためのコンペに応募したデザイン画が、曲のインスピレーションのもととなっています。

けっきょくこのデザイン画は採用されず、日の目を見ることはありませんでしたが、ムソルグスキーの名曲によって永遠に後世に残ることになりました。
「キエフの大門」は、変ホ長調の堂々たる和音で大地から沸き起こるようなスケールの大きさが表現され、縦横無尽に走る音階が教会の鐘の音さながらに打ち鳴らされる中、熱狂的なエネルギーが迸ります。けれどその合間に挿入されるのは、鎮魂の想いが込められたコラール。人々の悲しみ、苦しみが静謐な響きに込められています。

神様、願わくは、世界を震撼とさせた突然の軍事進攻に終止符が打たれんことを。そして一刻も早い戦争の終結を。

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