サー・アンドラーシュ・シフ リサイタル@オペラシティコンサートホール

11月3日安曇野のコンサートを終え翌朝移動。夜は東京オペラシティへ。サー・アンドラーシュ・シフのリサイタルに伺いました。
曲目は当日まで(というか当日になっても)わかりません。「これから0000を弾きます。」とステージ上のシフ氏のトークによって次の演奏曲目を知るというスタイル。まるでジャズのコンサートのよう。曲を聞きに行くのではなく「シフ」を聞きに行く聴衆で会場はほぼ満席。

本日はレクチャー付き。通訳はヴァイオリニストの塩川悠子夫人。夫人のお席がシフ氏の後方2メートルくらいのところに用意され、共にステージに悠々とした歩みで登場し、夫人は演奏中も舞台袖に入ったりせず、ずっと客席に顔を向け、身じろぎもせず音楽に耳を傾け、演奏後拍手。シフの最も良き理解者が常に見守っている姿は聴衆にとって心強く、テキパキとプロの通訳さんが無駄なく訳すのとは一線を画した、なんとも親密な世界が広がりました。

シフ氏が敬愛するJ.S.バッハで開始。まずカプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」BWV992が演奏されました。その後でモチーフの説明がゆったりとした口調で語られます。悠子夫人の通訳はさらにゆっくりと・・・。曲のストーリーの説明がが終わったところで
「みなさんがあまり知らない曲だと思いますので、もう1回弾きます。」え~!まさか。。。(と全員が思ったに違いありません。)

「まずは先入観無しに音楽に耳を傾けてほしい、そしてレクチャーを聞き理解を深めた後でもう一度聴いてほしい。」というコンサートの常識を超えたコンセプト。
大学の授業でも、通して2回弾くということはあまりありません。このコンサートは長くなるぞ・・・という予想どおりの展開が続きました。

続いて「モーツァルトの陰に隠れてしまうのはもったいない素晴らしい作曲家」としてハイドンが取り上げられ、ソナタ ハ短調 Hob.XVI-20。
再びバッハに戻り《半音階的幻想曲とフーガ》。アルペッジョが幻想的に奏でられ、そのバッハの系譜を辿ったベートーヴェン《テンペスト》へ。
「幻想」という糸が、アルペッジョの響きで繋がり、ニ短調という共通の色の中で、二人の作曲家が結び付けられました。

前半を終えたところで、すでに時計の針は9時を回っています。

後半はモーツァルトのロンドイ短調から。
「ショパンはモーツァルトを愛した。この曲はショパンのノクターンに通じる」というシフ氏の考えが述べられたあと、早めのテンポのロンドが披露されました。ショパンに影響を与えたと言うより、ショパンを先取りしたような演奏。付点は、複付点に変えてフランス風の軽やかさを表現。即興的な装飾法という意味でもモーツァルトとショパンの関連が浮かび上がりました。

最後に大曲シューベルト:ソナタイ長調D959。絶望と希望、光と闇が織りなす神業のような演奏に魅了されました。今回、オペラシティ常設のベーゼンドルファー・インペリアルを使用したシフ氏。ツアーに同行している調律師マーティンさんの音作りに脱帽。

予定調和のクラシックコンサートの世界を打ち破りたい、というシフ氏の個性あふれるステージにスタンディングオーベーション。アンコールにブラームスのイ長調のインテルメッツォop.118-2、モーツァルトのソナタKV545の第1楽章、バッハのイタリア協奏曲の第1楽章が演奏され、10時半終演。
強靭的なエネルギーと集中力に圧倒され、美音に引き込まれたステージでした。

「本日の公演プログラム500円で~す。曲目は掲載されておりませ~ん!」という不思議な当日用プログラムを購入(笑)。

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