冬の旅

ミュージックの日(3月19日)に行われた卒業式の朝は、けっこうな雪に見舞われました。その1週間後は、夏日で半袖Tシャツの若者が通りを闊歩し、明日はまた冬の気温に戻るとか。今年の3月は、三寒四温を通り越して猫の目のよう。皆様、体調管理にどうぞお気をつけて。

3月14日は、シューベルト:「冬の旅」を聞きに、トッパンホールへ。小森輝彦さんのバリトンリサイタルでした。
日本人初のドイツ宮廷歌手の称号をお持ちの小森さん。「冬の旅」をどう歌われるのか、楽しみに伺いました。
24曲、休憩無しの1時間20分。その長さを全く感じさせない演奏会でした。

リート(歌曲)は、オペラに比べて「地味な世界」「マニュアックなジャンル」というイメージをお持ちの方がおられるかもしれません。たしかに大がかりな舞台装置や衣装はありません。
けれどオペラで多くの役を演じてこられた小森さんの歌われる「冬の旅」は、聴く者を「彷徨い」の旅路に引き込む存在感がありました。乱暴な言い方をすれば、オペラ「冬の旅」を「見た」という印象。

端正に、繊細に、客観的なスタンスで歌う方もおられると思うのですが、小森さんはきれいごとにまとめあげずに主人公に切り込みます。その演者としての力量が圧倒的なリアリティを持って迫ってきました。

「雪の上に涙がこぼれ落ちた」「自分がどれほど疲れていたか」・・・本当にこちらの身体までその状態になるかのよう。「郵便馬車」や「カラス」や「ライヤーを弾く老人」の姿が、舞台の空間から目の前に立ち現れるのです。シューベルトの音楽の凄さをあらためて感じた次第です。

誰に諂うことなく体当たりで演じるドラマ「冬の旅」に
客席からは、その勇気を讃える大きな拍手が波のように沸きおこりました。

そしてピアノの井出徳彦さんにも心からの拍手!個性的な奏法の井出さんから紡ぎ出される音色と表現の多彩さには驚愕。一緒に聞いた親友が終わって一言。「歌い手さんが舞台に2人いるのかと思った」
言い得て妙!声楽家と伴奏ではなく「歌」2人の舞台。
初対面ながら、それを申し上げると「嬉しい。僕、やってよかった。」と微笑む井出さんのピュアな横顔はまるでシューベルトのようでした。

終演後ロビーにて。「冬の旅」を終え、素敵な笑顔の小森さんと。

シューベルト研究の堀朋平さんが解説を執筆されたCD「シューベルト:冬の旅・小森輝彦」(日本アコースティックレコーズ)発売中!です。

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