アーノンクール「最後の公演」

「音楽は我々に何を与えてくれるのか」
という言葉とアーノンクールのギョロリとした眼差しのモノクロの写真。
「今回の日本公演は、私の最後のツアーの、最後の公演となる」
で始まるアーノンクールのコメントで始まるプログラムです。

1929年ベルリン生まれの巨匠は、今年81歳。
舞台に現れる姿は堂々としていて、まるで年齢を感じさせない貫禄とオーラに満ち溢れていました。
曲目は、モーツァルトのセレナード「ポストホルン」とシンフォニー「ハフナー」。アンコールまでもニ長調にする調性のこだわりと統一感のあるプログラムでした。

最初の和音の透明感は、まるで天に上るかのような軽やかさと美しさで、ハッとするほどの新鮮な響き。
古楽器アンサンブルが生き生きと聞こえるのは、至難の業で、彼らの不断の研究から生まれるものと感動。

ただ熱演の中で、時間とともに、弦が微妙にゆるんでくるのか、音程やアンサンブルにわずかなずれが生まれると、もともとの焦点がきわめてピンポイントで設定されているために現代楽器よりそれらが目立ってしまったり、超難しい管楽器の音が新鮮ではあるけれどハラハラしたり・・・ということもあり、そういう感覚を持つということは、逆に言えば、我々の耳が現代楽器の演奏にいかに慣れてしまっているか、ということを感じた次第です。

モーツァルトの耳慣れたなじみの旋律が、
「おまえら、そうじゃないんだよ」
と説得されながら聞いているような雰囲気になることもあるのですが、それが徹底的なアーティキュレーションと演奏法の研究の立証の上に成り立っているところがあり、説得力のある演奏として眼前にそびえたつ感じです。
部分、部分がきわめて鮮明に姿を見せる音楽として開示され、ふわーっとBGM的な聴取は不可能です。目も耳も神経も研ぎ澄まして聞くことを要求される演奏のように感じました。

ウィーンのムジークフェラインで聞いたときのウィーンの聴衆の反応より、今日のほうが、お客さんの熱狂はすごく、ブラボーとスタンディングオーベーションの嵐。そして終演後、会場のオペラシティコンサートホールのロビーに並ぶサイン2時間待ちの行列。
アーノンクールフィーバーの一晩となりました。

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