音楽の力 part II

基礎ゼミコンサートは、国立音楽大学講堂大ホールで2時半から4時半の2時間、「音楽の力」と題して開催されました。新入生のほか、卒業生、在校生が大ホールに集い、開場は、超満員。

モーツァルト最後の年に書かれた名曲、K595と「魔笛」。
礒山雅先生の企画・構成・解説、そして栗田博文先生指揮、クニタチ・フィルハーモニカの演奏です。
前半で、ピアノ協奏曲27番 変ロ長調 K595のピアノを弾かせていただきました。
合わせを通じ、アンサンブルの和が密になっていく過程は、音楽をしていて本当に幸せを感じる瞬間です。国立のアンサンブル、結束の固さは、日を追うごとに、強く感じますが、舞台での一発勝負の世界の中で、さらにその思いを強くしました。

礒山先生の
「音楽は、人の心に深く強い力を持っています。そういう音楽を学び深めることが、一生を費やすに値する価値をもっていることを、演奏から汲み取ってください」
というお言葉に、凛とした空気が流れます。

「春への憧れ」のメロディで知られる、モーツァルトの最後のピアノ・コンチェルト。
私にとってもピアノ人生の中で、長年、憧れの存在でした。
余計なもの、雑多なもの、華美なものをすっきりそぎ落とし、かけがいのない音符だけで構成されている音楽。そして肩の力をすっと抜いたような透明感。
変ロ長調のこの曲では、クライマックスの音は、たいていF(ファ)の音ででてきます。それは、この調の中の属音(5番目の音)にあたり、最も糸が漲ったような状態になる音ですが、当時の楽器の最高音がこのファの音でした。楽器の限界ギリギリまで使えるだけ使って、宇宙を表現したかったモーツァルトの想いが、弾いているとひしひしと感じます。
この曲には、彼自身が作曲したカデンツァが残っており、もちろん今日もそれを使わせていただきました。素材がシンプルなだけに、様々な演奏が可能で、グルダの若いときのように自由闊達なジャズ風の演奏も可能でしょうし、ハスキルのような、余計なものは何も足さない、という清潔な演奏もあり得ましょう。
今回は、管楽器、弦楽器との温かなアンサンブルを目指し、こまやかな室内楽のようなかけあい、溶け合いを感じながら、モーツァルト晩年特有のポリフォニックな深みをはじめ、この曲の持つ多彩な魅力を表現することを心がけました。
このような光栄な機会を頂戴し、心から感謝いたしております。

後半は、「魔笛」2幕抜粋、
モチーフの共通性を感じたり、純粋に声の美しさを感じたりしながら、舞台袖で応援させていただきました。
小林一男先生のタミーノ、大倉由紀枝先生のパミーナ、若林勉先生のザラストロ、佐竹由美先生の夜の女王、久保田真澄先生のパパゲーノ、高橋薫子先生のパパゲーナ・・・・・と超豪華キャスト。
夜の世界と昼の世界の対比が浮き彫りになる演出で、あらためてモーツァルトの宇宙観、音楽観を体現されたオペラを実感しました。
いわき出身の大倉先生が舞台上でご挨拶され、新入生にエールを送られました。
今年は、大学にとっても困難なスタートになりました。一人、一人、そういう様々な思いをかかえての新しい春。

終演後、楽長の庄野進先生が楽屋にお寄りくださり、
「私達の思いが、新入生に深く伝わった演奏だったと思います。ベーゼンドルファーのやわらかな音もこの曲にとって、とても良かった」
と静かにおっしゃってくださり、胸が熱くなりました。

コメント

  1. YUKO より:

    若松さん
    ピアノ選びについてのコメント、ありがとうございました。
    今回は、ゆっくりと時間がありましたので、ピアノを温めることを兼ねて全曲弾いて選ばせていただきました。
    温まってくるとピアノは、音が全然変わってくるのです。
    まるで年代物のいいワインが空気に触れて時間と共に、香りと味わいが増してくるような・・・。
    そういうゆっくりとした時間をいただけないときには、
    メイン楽章である2楽章の出だしで音色を聞き、軽やかさを要求される3楽章のテクニカルな箇所でタッチを見て、1楽章のそれぞれのテーマを弾いて最も自分のイメージを出しやすい楽器を選びます。いくつか、お気に入りのパッセージ(モーツァルトの場合、経過句やちょっとしたつなぎの箇所にも魅力的な場所が多いのです)も弾いてみてしっくりくる楽器を選びます。

  2. 若松茂生 より:

    お忙しいところ非常に興味深いコメントありがとうございます。
    一期一会のピアノを選んでの真剣勝負。まさに「ピアノ道」ともいえるお話ですね。
    もう一つだけお聞きしたいことは、ピアノの調子を調べる場合、第27番であれば、どのフレーズをお弾きになって音色やご自分の相性との具合を試してみるのでしょうか?
    そのフレーズはきっと久元さんにとって第27番の中で最も重要なフレーズだと思いますので、興味のあるところです。

  3. yuko より:

    ご自分の名器を持ってステージに登場される管楽器や弦楽器奏者の方と違い、ピアノは、ほとんどのステージで、そのホールの楽器で勝負します。
    選ぶことができる場合、ホールにピアノを出していただいたとしてもお客様が入っていない状態で選ぶわけですから、本番とは音響も微妙に違うでしょうし、いろいろ未知数のこともあるのですが、勝負に出れる楽器かどうかを、最後は楽器と自分との相性、作品と音色の相性で決めます。
    どのような絵を描きたいかで、使う絵の具の色を選ぶ、といった感じでしょうか。
    若松さんがおっしゃるように、短調の持つ厳しさ、ドラマティックな面は、スタインウェイの鋭さが武器になるかもしれません。
    ただ、スタインウェイと言ってもそれぞれの楽器の状態、使われている頻度、弾かれている年数によって千差万別。
    メーカーだけで決めてしまうことができない面もあります。
    そこがピアノの面白いところだと思います。

  4. 若松茂生 より:

    第27番のピアノ選びの文章は、久元さんのピアノに対する愛情がこちらにも直接伝わってきて感動的でした。
    第27番はやはりベーゼンドルファーのなのでしょうね。第20番だとスタインウェイでしょうか?
    第24番もスタインウェイという気がしますが、第23番だとどうなのでしょう。ピアノが生きている人間のように思えてきます。ピアノによって性格がそれぞれ違い、奏でる音楽もそのピアノ固有の性格が表れてくるということなのでしょう。もちろんピアニストの性格も、ピアノを通じて表れてくる・・・・・。