ペダルについて

ピアノ音楽誌「ショパン」11月号で、ペダルの特集記事が編まれ、「ペダルの歴史」について、書かせていただきました。
字数が限られていたので、言い尽くせないことがたくさんありましたが、これまで弾いてきた、さまざまなピアノのことを思い浮かべながら、書いてみました。

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膝で上げるペダルのヴァルターは、鍵盤の音以外の、いわば雑音が出ます。この楽器でレコーディングをしたときは、現代のマイクがちょっとした小さな音も聴き取ってしまうので、大変苦労しました。
浜松の楽器博物館で出会ったモーツァルトの少しあとのピアノには、トルコ・ペダルが付いていました。シンバルのおもちゃのような金属がピアノの左端にあって、トルコ・マーチのアクセントでそのペダルを踏むと、トルコの打楽器のような音がチカシャンチカシャンと出て、楽しい気分になりました。
ふだん弾いている私のエラール(1868年製)は、弦の上のダンパーが上がるのではなく、弦の下にあるダンパーが下に降りる仕組みになっています。最初見たとき、違和感があったのですが、ペダルを踏む(下におろす)のと同じ方向なわけですから、イメージ的にも自然でよりこまやかな変化ができるような気がしてきています。
クララ・シューマン時代のグラーフのソフトペダルは、それはそれは美しい弱音を出すことができ、トロイメライなど弾くと、魔法のような音色に変わります。まさに、「夢」の世界に連れて行ってくれるようで、感動しました。

現代は、3本ペダルでほぼ定着していますが、新しいところでは、ファツィオリの4本めのペダルというのもあります。
このペダルを踏むと、鍵盤が浅くなってハンマーの打鍵距離が短くなり、その結果、音色は明るいまま弱音が得られます。
数年前、そのような改造をされた別のピアノをオーストリアの巨匠の別荘で見たことがあります。
「自分の特注である!」
とおっしゃっていましたが、そういうピアニストからの要望やアイデアが試作品となり、ユーザーの支持が増えれば製品となる、という流れになることも考えられます。

これからの「ペダルの歴史」は、どんな方向に進むのでしょう。
「ピアノは完成品、その伝統を守るのが我々の仕事」
と、ベーゼンドルファーの工場長さんは、言っておられました。
今後、何かピアノの世界に新しい波が起こるとすれば、どのようなことなのか、未来のピアノに思いがふくらむところです。
踏むタイミング、踏む深さ、ソフトペダルとダンパーペダルのかねあい、ダブル使いなど、ペダルをどう使うかによって様々に演奏は変化していきます。
理想の音を追求していく上で、ペダルの果たす役割は大きいと思います。

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