映画「ピアノマニア」

以前から見たいと思っていた映画「ピアノマニア」 。
1日1回というのでなかなか行く時間がなかったのですが、一昨日新宿シネマアートで見てきました。
音大生割引?!がきいてしまい、ちょっと得した気分で、こじんまりした映画館の隅の椅子に座りました。
まわりは音楽関係者という感じの方が多く、ちょっとマニアックな雰囲気です。
ドキュメンタリーですが、登場人物はしぼられていて、主役は、スタインウェイ社技術主任のシュテファン・クニュップファー。
そしてただの「わがまま」としか思えないようなお願いごとを、静かに、ポソポソとした口調で、けれど逆らえないような雰囲気で要求するピエール・ロラン・エマール。今55歳くらいでしょうか、体力も知力も油の乗り切ったフランスのピアニストです。
バッハの「フーガの技法」の録音が映画のテーマになっていて、そのためにコンツェルトハウスのピアノ選びから技師とのやりとり、音色に対しての意見交換までの現場が描かれています。
 シュテファンさん、もともとピアニストを志していた時期があるそうで、ピアニストの希望を肌で感じることができ、そしてその要求に対して持てる力の全てを傾けることができる、人間と音楽とピアノへの愛情に満ちた人物です。たしかな技術と音感の鋭さ、根気と優しさ、そういう調律師さんとして資質が高く評価され、一流ピアニストたちの信頼を得ているのだと思います。
工夫に工夫を重ねた試みがピアニストによってNOと言われれば、理屈をこねずに、さっと引く潔さ、そしてピアニストの満足に応えるためにあらゆる手を尽くす執念。コンツェルトハウスの長い階段を上ったり下りたり登ったり下りたり・・・ということを駆け足でできる俊敏な体と持久力。
エマールが「こっちのピアノにしよう」「いや、あっちのピアノのほうがいい気がしてきた」と迷う。
エレベーターの中でお互い違う方を向きながらお互いの思惑が別の方向を向いている瞬間、どちらの気持ちもわかるような気がして苦笑してしまいます。
時代の寵児、ランランが椅子から飛び上がるような演奏スタイルにも耐えられるビッグサイズの椅子を用意したり、巨匠ブレンデルの音楽祭出演のサポートをしたり・・・。そういう調律師さんのおかげでピアニストが成り立っている、という芸術制作の現場に迫った秀逸な映画でした。
一昨日のコンサートで調律をしてくださった調律師の外山洋司さんが、プログラムにエッセーを執筆していらっしゃいました。

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