「モーツァルトと二人のバッハ」

国立音大研究所、モーツァルトシリーズの第3回。
恒例の水曜6時からSPC-Aで行われました。
今日は、「モーツァルトと二人のバッハ」というタイトルで、お話をまじえながらカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ、ヨハン・クリスティアン・バッハ、そしてモーツァルトの作品を演奏させていただきました。
共演は、立川和男先生、懸田貴嗣さん、大西律子さん。
3人の名手から多くを学ばせていただいた一晩でした。

エマヌエル・バッハの「通と愛好家のためのソナタ」や小品などソロの作品はかなり弾いてきましたが、トリオは初めてでした。きょう弾かせて頂いた作品は、17歳のエマヌエル少年がライプツィッヒ大学法学部に入学した年の作品です。多感様式の作曲家の最も純で多感な時期に作曲されたものです。
お父さんのポリフォニックな様式を残しながらも随所にみずみずしい感性とロマンにあふれます。心がきゅんとなるような憂いやときめき、パッションが次々と現れ、若き日のエマヌエルの並々ならぬ才能をあらためて感じました。
ト長調とは思えないような嘆きの半音階下降、ため息のモチーフで始まる開始に、弾いている一同「?」だったのですが、回を重ねるごとに「これはいい!」と4人が共感しながらエマヌエルに近づいていくその過程が、今回の大きな収穫だったように思えます。
立川先生は、直前まで別の校舎で現代フルートを吹いていらして、パッと着替えをするようにフラウトトラヴェルソに持ち替え、いともしなやかにタイムスリップ!
職人のかっこよさを見せてくださり、学生たちも大拍手!でした。

クリスティアン・バッハは、モーツァルト初期の作品にいかに大きな影響を与えたかが一目瞭然の材料を次々に提供してくれます。若いときに出会う先輩が、いかにその後の人生を左右していくのか、天才といえども吸収したり、学んだり、模倣したり、という時代があったという事実が、モーツァルトの価値をさらに高めてくれるように思えます。

モーツァルトは、やはり別格、というような選曲をしたかったので、あえて晩年のト長調を選び、トリにしました。
モーツァルトになると、チェロは通奏低音やバスの補充ではなく、縦横無尽の活躍をします。本番連続、超多忙な売れっ子チェリスト懸田さん、丁寧かつ鮮やかな演奏で聴き手を魅了しました。

バロックヴァイオリンの大西律子さんがバロックヴァイオリンと現代のバイオリンの違いを楽しく解説してくださいました。
「バロック(いびつな真珠)時代の楽器は、均一ではないものが尊ばれた時代。楽器も均一ではなく、調律もそう。きれいな音程もあればそうでないところもある。近代への歴史というのは、どんどん均一化されていった歴史でもある」
という言葉が印象的でした。
大御所の東川清一先生も大きくうなずいておられました。
木ではなく鋳鉄でつくられるようになり、安定性と均一性が求められるようになっていったピアノの歴史とも重なります。
現代ピアノでこの時代の作品を弾く時、無機質で機械のような演奏にならないよう、ピリオド楽器から学んでいきたいとあらためて思いました。

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