貴族の邸、そして「心の闇」

モーツァルトのイタリア滞在を支えたのは、貴族たち!ということをあらためて実感した今回の旅。
広大なブリーディ邸をあとにし、当時、シルクで栄えた貴族ピッツィーニ家の邸を訪ねました。

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ピッツィーニ家の紋章は「つばさ」。これは兵士や軍隊を表しており、今でもここでアルピーニというアルプスの軍隊のお祭りが行われているそうです。
モーツァルト父子はこのピッツィーニ邸でたびたびお世話になっています。当時の客間や暖炉、階段などもそのまま残っており、博物館となっています。シルクのサンプルを触らせていただきましたが、ベルベットの風合いとシルクのなめらかさを併せ持ったような布地で、うっとりする手触りでした。

ピッツィーニ邸をあとにし、ドン・ジョヴァンニが「素晴らしいマルツェミーノ!」と歌う、マルツェミーノ・ワインの醸造所 le MORE del GELSO に向かいます。
昔に比べ生産量は2割減とのことでしたが、コンピュータ管理の大きな工場でした。
ちょっとスモーキーな感じがする CHARDONNAY、
酸っぱさいけれどさわやかな MULLER THURGAU
そして、話題の MARZEMINO SUPERIORE D’ISERA などを試飲。
ドン・ジョヴァンニのラヴェルがついた限定特注品が一昨日のパーティーで供され、モーツァルティアンの皆さんはそれを大量購入する予定だったのですが、それは、ホテル・ノヴェチェントにしか置かれていない非売品だそうでがっかり。

続いてロドローン邸に向かいます。
穏やかで気品のある美しいコンテッサが出迎えてくださり、ヴォラーニ会長、コンテッサ、そして私の3人で記念撮影。
音楽祭の一環である、クインテットのコンサートを聴きました。
コンサートが始まる前、昨日の私の演奏会に来てくださった画家さんに再会。そのとき画家さんは、「あなたの音楽が私の人生を変え、霊感を与え・・・と」詩のような台詞で語ってくださったのですが、同じ紫色のジャケットでまたまた語り始めるのです。

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「誰にでもいうことではないが、偉大な音楽家になるための言葉をあなたに言ってもよいか?
申し上げたいのは、芸術家にとって必要なのは、心の闇だということだ。
あなたの心は常に光に満ちあふれている。それは輝き、人々に安らぎと美しい幸せを与える。
けれど、あなたがさらにもっと大成するためには、人を心の底から憎んだりする感情、地獄のような苦しみを味わったり、地面が割れてそこに落ちるような夢を見たりすることが必要だ。
あなたに”闇”の要素が加われば、あなたの芸術はさらに大きく飛躍するだろう。
私があなたの夫であれば、その心の闇を引き出すことができるのだが・・・。
次に会うとき、次にあなたの演奏を聴くとき、私はあなたにそれを期待する」

明るいと思っていたイタリアで、
「あなたに必要なのは闇!」
と画家に言われるというのは、私はよほどのネアカということでしょうか・・・・。

クインテットの演奏の合間に窓の外に出ると、山の向こうから吹いてくる風が頬に気持ちよく、ロヴェレート最後の夕暮れを楽しみました。

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