Orchestra Haydn di Bolzano e Trento

チェック・インを済ませ、部屋の片づけをしたあと、夕食に繰り出そうと思いきや、どこのレストランも7時半からとか。6時から開けてくれる日本とは違います。カバンの中から羊羹を一切れ。血糖値を少し上げたあと仮眠をとりました。ふと目が覚めると8時10分。慌てて用意をしてロヴェレート・ザンドナイ劇場へ。8時45分開演にギリギリ間に合いました。この劇場は、モーツァルト時代に建てられ、2年前に長い改築工事が終わり、ようやくリニューアルオープンしたところ。素晴らしい音響と雰囲気で、モーツァルト時代にタイムスリップしたような気持ちになりました。
image
ボルツァーノのハイドン・オーケストラによる演奏会。指揮とピアノは、アレクサンダー・ロンクイッチさん。イタリア出身でバトラ・スコダ氏のもとで学ばれたピアニストです。モーツァルトのコンチェルト第17番ト長調が、明るく生き生きと奏でられ、引きこまれました。ロンクイッチさんのピアノは、まるでフォルテピアノを弾いているように、透明感があり、すべての音が明快ではっきりと主張する音楽です。オーケストラの音の清潔感と躍動感も特筆に値します。古典奏法は、ビブラートをほとんどかけないので、あらが目立ちやすく、歌うのが難しい、、、といやがる奏者の方も多いのですが、古典奏法によるモーツァルト演奏の素晴らしさを実感した一夜でした。
清潔感を保ちつつ、息遣いと方向性と情感を表すのは並々ならぬエネルギーと技術とチームワークが必要ですが、彼らの演奏はそれらが揃っているように思えました。ロンクイッチさんの指揮により、続いてハイドンのシンフォニーニ長調 N.80。モーツァルト時代、マンハイムオーケストラはこんな演奏をしたのかもしれない、、、と想像してしまいましたが、急激なクレッシェンドやスビト・ピアノ(突然に弱音にする効果)などの変幻自在な
演奏に、大拍手!
image
後半のモーツァルト・ピアノ協奏曲第27番も、装飾を加えた自由な演奏で、見事でした。静謐さよりエネルギーが前面に出ているようなところも感じましたが、この晩年の名曲を単に神秘的で肩の力が抜けた天上の音楽としないところもロンクイッチさんの個性なのでしょう。
image
終演は午後11時過ぎ。夜7時に始まり、9時に会場をあとにする日本のコンサートとは2時間ずれています。
これでも「北に行くほど開演時間は早い」」そうで、スペインは11時始まりのコンサートもざらだとか。
コンサートの余韻に浸りながら、イタリアモーツァルト協会のヴォラーニ会長とザルツブルクから打ち合わせに来られていたドクター・チヴィディーニと3人で夜のバーに繰り出しました。なんと、そのバーは、その昔モーツァルトが滞在したホテルだったそうです。それを聞いて「え~!すごい!」とはしゃぎ、写真を撮ろうとする私を制してヴォラーニ会長は「なにをぐずぐずしておるんじゃ。早く中に入って。君はおなかがすいているんじゃなかったのかね。」と一喝。ヴォラーニ会長は、コンピュータ関係のビジネスマンでイタリア人らしからぬ”せっかちさん”です。
モーツァルトが滞在、モーツァルトが演奏、モーツァルトが・・・となると我々日本人は興奮してしまいますが、考えてみるとそこらじゅうに、歴史が残る彼らにとっては、いちいち立ち止まるほど珍しくないのでしょう。
チヴィディーニ氏とは、モーツァルトの使用したヴァルター・ピアノのこと、ハンガリーで発見されたKV331の自筆譜の話題で盛り上がりました。
2000年頃ハンガリーから送られてきた手稿譜を2014年に「自筆譜」と鑑定したのが、ザルツブルク・モーツァルテウム財団。その鑑定に必要なのは、透かし模様で、すぐに判断可能だったそうです。当時の透かし模様を入れる仕組みを教えてくださいましたが、日本の割り印のように、重ねればすぐに鏡のようにわかる仕組みです。
「すぐに判断可能なのに、なぜ4年かかったの?」と尋ねる私に、「それは僕にもわからないなぁ。」と。
ハンガリーの政治的事情など、複雑な理由があるのかもしれないし、単に他にたくさんの事項が山積みだったのかもしれません。いずれにせよ、モーツァルト研究今世紀最大の発見が世にでるまでに、4年の歳月を待った、ということです。
明日は、この自筆譜発見バージョンで、モーツァルト時代のヴァルター・モデルのフォルテピアノで演奏します。

コメント