「すみません」

日本に来て10年のフランス人ヴァイオリニストに
「来日して最初に覚えた言葉は?」 と聞くと
「”すみません”だったよ。日本人がよく使うから」
とのことでした。
イタリア人フルーティストは、飲み屋さんで日本人が最初に頼むのが
”とりあえずビール”
という名前のビールだと思っていたそうです。

物事をまるく収める”すみません”や、結論を曖昧に先延ばしにする”とりあえず”は、ヨーロッパの人から見ると面白い言葉というか、日本人の専売特許なのかもしれません。

アメリカに留学していたときは、車の事故を起こしても「I’m sorry」や「Excuse me」を絶対に言ってはいけない、とホストマザーに言われました。
「自分の非を認めたということで訴訟のときに不利になる」
「日本人は、パニックになるとこの言葉を連発する習慣があるから注意しろ」
とまで言われました。
「でも道で肩がぶつかったくらいなら”Pardon」”と言いなさい。それが礼儀だから」
とのことでした。

ウィーンの巨匠、イエルク・デームス先生からは、「Excuse me!は、一生に1回か2回使う言葉と思え。日本人は、すぐに謝りすぎる」
と厳しく言い渡されました。

でも最近は、まわりで、この「すみません」が減っているように思うのです。
つい先日も “OPEN” の札がかかっているレストランに入ったら
「もう終わってます」の一言。
おもむろにOPENの札をひっくり返してCLOSEに変えられてしまいました。

スーパーで「八角ありますか?」と店員さんに聞くと「ありませんよ」という答え。でも横を見たら、ちゃんと八角が!「あ、あった」と見つけると「ああ。ほんと」と一瞥をくれるだけ。

CDショップでも在庫をたずねる私に、「ありません」と自信に満ちて応える店員さんの背中のところに目当てのCDがあるケースが2回ありましたが、その店員さんは、別になにを言うでもなし、ただレジを通すだけでした。
「すみません。ちょうど今終わったところなので。またいらしてくださいね。」とか
「すみません。見落としてました」とか商売上手の人だったら言うのになぁ。と思うのです。
デームス先生、「すみません」を言わない日本人だっていっぱいいますよ~!と言いたい。

ところで、近所にドイツ人のご夫婦が住んでおられます。
NHKテレビのドイツ語講座に出演していらっしゃるせいか、言葉に敏感なのか、日本語もお上手です。
合気道の道場に通う日本通。
礼儀作法も鍛えているのかもしれませんが、挨拶も上手。
にこやかに「こんにちは」「失礼します」「寒いですね」。
そして可愛い双子ちゃんを大きな二人乗り乳母車に乗せて散歩にでるときは、マンションの狭い玄関ですれ違う人に必ず声をかけます。
「すみません。」
日本人としてのお株をとられてしまったような気分で「いいえ、どうぞ」と道を譲る私です。

コメント