ゴッホ展@東京都美術館

30代の頃、アムステルダムのファン・ゴッホ美術館で圧倒されて以来、来日の折には、必ず足を運ぶゴッホ展。今回は「クレラー=ミュラー美術館」所蔵作品を中心にした展覧会を鑑賞。

ゴッホ(1853―1890)の芸術に魅せられ、生涯をかけて油彩90点、素描・版画180点を収集したヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869―1939)。
今回の展覧会は《響き合う魂 ヘレーネとフィンセント》と題され、ヘレーネのコレクション、ヘレーネの人生、ゴッホの受容史に焦点が当てられています。
ヘレーネが白い馬に乗る美しい写真。知的な眼差し、凛とした姿勢、強い意志を感じさせる厳しい表情。

美術教師との出会い、美術収集、世界大恐慌、家業の経済破綻、大病と手術、夫と共にそれらを乗り越え、美術館建設の夢を果たし、その翌年に他界したヘレーネの人生が丁寧に辿られていました。

「スケッチは種まき、油彩は収穫」と語ったゴッホが、油彩の名画に至る道筋がスケッチとして残っているのは、ファン必見。農家の作業を見つめるゴッホの視線が筆致から直に伝わるようでした。

点描画の手法を実験的に使ったり、静物画で色彩の実験を行うなど、新たな道を模索するゴッホの姿。およそ10年の創作期間とは思えない凄まじい情熱と、壮絶で短い人生。

発作後、療養院で暮らすゴッホが描いた《療養院の庭の花咲くバラの茂み》は限りなく美しく、アトリエ《黄色い家》に見出そうとした理想は青いコバルトブルーの空の下で輝きを放っています。けれどその直後に自ら命を絶ったゴッホ。《夜のプロヴァンスの田舎道》の燃えるような激しい糸杉を残して。。。

情念が迸るような筆致に、かき乱されるような思いで美術館の外に出ると、ちょうど上野にも月と星が出ていました。

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