エゴン・シーレ

入学式、基礎ゼミなど新学期が始まりました。演奏会なども重なり、「春休み」なるものはほとんど無いまま、4月に突入。
今年も国立音大で「演奏論」「作曲家と作品研究」「演奏解釈」「ピアノ・リテラチュア」、大学院科目では「作品研究」と「テーマ別演習~鍵盤楽器の変遷と楽曲の関連~」と計6つの授業を担当します。ピアノ実技のクラスでも、久しぶりに会う若人の成長、新入生との嬉しい出会いなど、春は忙しいけれど、テンションが高まる季節です。

先月末、隙間時間を見つけて駆け込みセーフで鑑賞できた「エゴン・シーレ展」。ずいぶん前に日本で行われた展覧会で衝撃を受け、ウィーンに行く度に立ち寄るレオポルド美術館ですが、コロナ禍でしばらくウィーンにもご無沙汰続き。シーレとの再会に胸がどきどきしました。

私が長年愛用してきた1911年ウィーン製ベーゼンドルファーは、何とも言えないまろやかな音色が魅力の楽器です。当時のウィーンの香りを伝えてくれるピアノですが、この1911年はシェーンベルクの「6つのピアノ小品op.19」が生まれ、シーレが初の個展を開催した年。この頃の作品を見ると心の耳の中に、112歳のベーゼンドルファーの音色が響いてきます。

今回の音声ガイドでもマーラー、シュレーカー、シェーンベルク、ウェーベルンなど当時の音楽をバックに劇的なシーレの人生と作品が語られました。

展覧会に先立ち行われた小宮正安先生の「社会文化史から読み解くエゴン・シーレとウィーンの世紀転換期」のご講義(朝日カルチャーセンター)は、シーレを取り巻く当時の世相、社会、芸術環境、第1次大戦がもたらしたものなどシーレが生まれた背景を90分ピッタリで濃密にお話しくださいました。「あーそういうことだったのか・・・」と疑問が氷解したり、歴史の縦線横線が繋がるようで本当に楽しく、シーレを見る目も変わりました。

クリムトに傾倒した時期の作品からは、若きシーレがクリムトから全身全霊で受け取ろうとした精神が伝わり、その後クリムトからの影響を克服し、独自の世界を築いた作品群からは、内面を抉り出し、迷いの無い線で描ききる、唯一無二の世界が立ち上ります。

名声を得た絶頂期に28歳の若さでスペイン風邪によって奪われた命。。。
今回、同時代の画家の作品も展示されたのですが、並べて見ると深さも強さも色も線も表現もレベルが全く違うのに驚き、あらためてシーレの並外れた才能に圧倒されて帰途につきました。

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