ポスト・ホルンの季節

3月19日、今年も国立音楽大学卒業式が行われました。3月19日は「ミュージック」の日だそうで、音大卒業式の日としてこれ以上ふさわしい日はないでしょう。
ちょうどキャンパスは春の花が咲き始める季節。

そして色とりどりの袴姿の卒業生で、講堂はまるでお花畑のよう。
議長団を代表してドイツ語の宮谷尚実先生が凛としたお声で司式され、武田忠善学長先生、山下洋輔同調会長のご挨拶があり、最後はホルンの井手詩朗先生の指揮のもと勇壮なレスピーギの『ローマの松』が大迫力で演奏され、高揚と感動の中、卒業、修了生は卒業証書を受け取りました。

今年の卒業生は、4年のうち半分の2年間がパンデミックの中で過ごしたことになります。そんな中、それぞれの道を模索しながら無事卒業の日を迎えることができ、将来の夢に向けて歩みだしました。

この季節、個人的にはモーツァルトの『ポスト・ホルン・セレナード』が心に浮かびます。先日ご紹介した廣部知久さんのご著書『いつもモーツァルトがそばにいる。』の中にも同じことが書かれていて嬉しくなりました。

この曲は、23歳のモーツァルトがザルツブルク大学のフィナール・ムジーク(卒業音楽)として作曲したと考えられています。第6楽章でポスト・ホルンのソロが活躍しますが、トランペット、ティンパニーも入る大編成で大規模な曲です。ポスト・ホルンは、御者が郵便馬車の到着を知らせる合図に使った楽器ですが、メールもラインも電話も無い時代、郵便馬車はコミュニケーション・ツールとして現代の何倍も重要だったことでしょう。

シューベルトの《冬の旅》(Winterraise)にも「郵便馬車」(Die Post)が登場しますが、かつての恋人がいた町から来た郵便馬車を痛切な思いで見つめる若者を描いています。ポスト・ホルンの響きは、喜び、悲しみ、様々な想い出を呼び起こしたに違いありません。

屈託のない笑顔で旅立つ、ポスト・ホルンに無縁のまぶしい晴れ姿の卒業生たち。それぞれの道で、大きな花を開かせてほしい、幸多かれ、と願ったミュージックの日でした。

コメント