スポーツ科学が大きな成果を出している昨今。素質、根性、気力、情熱・・・そこに科学的な分析が加わることで、メンタルコントロールも含め、理想のパフォーマンスを実現させるアスリートの活躍は頼もしい限りです。
音楽の世界でも、最近、データサイエンスとの結びつきが話題になっています。科学技術が感性や創造性にどう関わっていくのか、そして演奏がどのように解析されていくのか、私達演奏家にとっても興味深いセミナーが行なわれました。国立音楽大学創立100周年記念事業の一環として開催された「第2回音楽データサイエンスセミナー」です。
国立音大での演奏科学の取り組みについて三浦雅展先生の発表でスタート。私もフォルテピアノと現代ピアノにおける音響信号の違いなど、いくつかの実験に参加させていただきましたので、その結果がどのように分析されたのか、楽しみでした。そして今後の演奏科学について注視していきたいと思っている一人です。
続いて国立音大打楽器専攻・博士課程の竹下和秀さんの発表。「モーションキャプチャを用いた4本マレット奏法の科学的理解」と題し、指と手首と角度による違いが解析されました。インディペンデントグリップとニュースタンダードグリップなど、打楽器の専門的な説明もわかりやすく解説され、今後、演奏・教育の分野でも活用されていく感がありました。
第2部では箏の演奏に関する科学研究について演奏家であり研究者でもある安藤珠希さんがレクチャーコンサート。音程の取り方など感覚で行うことが慣習化されている世界で、上手な人の技術が科学的に解明されれば、師匠から弟子へ受け継がれるものが、より確かなものになるでしょう。
第3部では大阪芸術大学の高橋純先生が、プロと学生の声楽家の身体の状態の違いや音声生成の仕組みを可視化してくださり、初めて見るリアルタイムMRI映像に引き込まれました。最後は古屋晋一先生の「ピアニストのための科学と身体教育」と題された研究発表。『ピアニストの脳を科学する』などの著書で知られる古屋先生のお話を直に聞ける嬉しい機会でした。「科学にはエビデンスが必要」と説く古屋先生。ご自身のピアニストとしての経験を活かしたコンピュータサイエンスの研究について淀みなくお話しくださり、普通なら転んでしまうようなパッサージュも、開発された機械を使うことでスムーズに弾けるようになったり、頭部に微電流を通すことで上達の伸びしろを上げることができた例などをご紹介。速く、ミスなく弾けるようになる、ということが即「上達のエビデンス」と言えるのかどうかは疑問が残りますが、これまで膨大な時間をかけなければならなかったメカニック習得の練習時間を効率よく減少させることができれば、手を痛めたりすることも減り、余ったその時間を他の情操教育に使うことも可能なのかもしれません。
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